第56回日本作業療法学会

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ポスター

地域

[PN-10] ポスター:地域 10

2022年9月17日(土) 14:30 〜 15:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PN-10-2] ポスター:地域 10認知機能障害を有する高齢者の排泄トラブルへの解釈と対応

介護職員への聞き取り調査より

王 治文1浅野 朝秋2小野 肖奈3石川 隆志2 (1東北文化学園大学医療福祉学部リハビリテーション学科作業療法学専攻,2秋田大学医学部保健学科作業療法学専攻,3医療法人正観会 御野場病院)

【背景】
 要介護高齢者の増加に伴い,高齢者福祉施設とりわけ介護老人福祉施設(以下特養)のニーズが高まっている.2020年には特養の利用者は約65万人と推定されている.特養利用者は日常生活の諸活動に介護を要し,特養では入浴,排泄,食事などの介護やその他の日常生活の世話を行う.一方,高齢者の認知機能障害により失禁や排泄トラブルのリスクが高くなり,施設入所のきっかけになることが報告されている.作業療法士(以下OT)は特養利用者の心身機能の維持向上を図り,日常生活の活動性を高め,積極的に作業を従事するように支援している.排泄トラブルの改善は特養利用者本人の日常生活の活動参加につながるとともに,介護職員の仕事量軽減にも一助すると考える.したがって,本研究は認知機能障害を有する特養利用者の排泄トラブルに着眼し,世話する介護職員に対しインタービューを行った.介護職員の経験上にあった認知機能障害を有する特養利用者の排泄トラブルの事象,およびそれぞれの事象に対しの解釈と実際の対応を聞き取った.介護職員の立場での考えと対応を明らかにすることにより,排泄トラブルの改善の可能性を検討すると同時に,利用者本人の作業参加および多職種連携を図りたいと考えた.
【方法】
 特養で介護職員として3年以上の勤務経験を有する正職員5名を対象に半構成的インタービューを行った.インタービュー内容は,①認知機能障害を有する利用者と関わる際遭遇した排泄関連のトラブルはどんな事象があったか,②排泄トラブルの事象についてどう解釈したか,③排泄トラブルの事象に対してどのように対応し,結果はどうだったか,の3つであった.
 収集した情報が逐語録を作成したのち,事象ごとあらかじめ決めた分析の枠組みに分類し,内容の階層化を行った.なお,本研究は演者の所属機関が設置した倫理委員会の承認を受けてから実施された.
【結果】
 インタービューを対象とした介護職員は女性4名男性1名で,全員10年以上の介護経験があった.インタービューを通して26の事象を収集した.26事象を「尿便意の異常」,「トイレへの探索の異常」,「トイレ動作の異常」,「排泄介助の拒否」,「不潔行為」,「異所排泄」,「物品使用のトラブル」の7分類に分けることができた.「トイレの機器操作の異常」,「おむつの使い方の異常」,および「外出時のトラブル」に該当する事象はなかった.介護職員は排泄トラブルについておおむね利用者の立場で解釈することができた.しかしながら排泄の完遂または排泄トラブルを解消するため,介護職員は利用者の意を反して介助にて対応したことがしばしばあった.
【考察】
 本研究の結果より,介護職員の立場から認識した排泄トラブルの事象はさまざまがあり,これらの排泄トラブルは身体的,認知的,複合的理由で生じたことが分かった.介護職員は利用者の心情に寄り添い,利用者の立場で排泄トラブル発生の原因や利用者本人の認識を考えることができたが,普段の業務遂行の流れで利用者の意を反し介助を行ってしまったことがあった.OTの立場からは介護職員の医学的知識の補充により障害への理解が深まり,より適切な対応ができると考える.また,環境の整備や工夫により,利用者に適する対応が実現可能と考える.OTは利用者への働きかけのほか,普段の業務の中介護職員と連携を図ることで,利用者の排泄トラブルが改善できるのではと考える.