第56回日本作業療法学会

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ポスター

地域

[PN-10] ポスター:地域 10

2022年9月17日(土) 14:30 〜 15:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PN-10-4] ポスター:地域 10コロナ禍において医療的ケア児をもつ母親2名のつながりを支援した事例

ソーシャルメディアを使用して

長谷川 陽子1 (1キョーワこども訪問看護リハビリステーション寄り添い屋)

【はじめに】小児分野の作業療法において,対象児だけでなく母親の心身の健康を観察,支援することは重要である.幼少期は母親が主な養育者であることが多く,母親の心身の健康は子育て全体に影響を及ぼすためである.本報告の対象は在宅生活で恒久的に高度な医療的ケアを必要とする重症心身障害児(以下,医療的ケア児)の母親2名である.どちらの母親も医療的ケア児が初めての子育てであり,児を通じた母親のつながりはなく,さまざまな不安を抱えたまま在宅生活がスタートした.さらに2020年より新型コロナウィルスの感染予防対策のため,不要不急の外出自粛が奨励され,人と対面で交流できる機会が激減し,母親同士のつながりを新たに作るのはより難しくなった.インターネットを介して,医療的ケア児の母親が発信する情報を得ることはできるが,日常的なできごとや不安を共有できる同じ立場の母親と交流の機会がないまま子育てを行っていた.訪問看護・リハビリテーションの利用や地域療育センター・デイサービスへの通所を開始しても交流する機会は得られず,訪問作業療法中に同じ状況の母親とのつながりを希望される発言が聞かれた.
【目的】2名の母親が,医療的ケア児をもつ母親とのつながりを希望されており,作業療法士が支援し,交流する機会を得た.その後,対面で交流されるまでに至ったので報告する.
【方法】2名の母親の希望を確認し,同意を得た上で,ソーシャルメディアを利用し,母親同士が直接メッセージのやりとりができるよう支援した.双方の母親に同意が得られるまでは個人情報は保護されることは口頭にて説明し理解を得た.報告については文書で同意を得た.
【結果】ソーシャルメディアを利用し,母親同士でメッセージ交換開始後,日常的にやりとりを継続し,約1ヶ月半後に対面で会う約束をされた.一児の入院により最初の予定は延期となったが,退院後,改めて日程調整され,交流を開始してから約2ヶ月半後に対面で会うことができた.対面で交流するまでに,日常生活の共通する話題でメッセージ交換を続けられた.対面前の時点で双方の母親より,つながりを持ててよかったという主旨の発言が聞かれた.また対面の予定が決まるとその日を心待ちに母から児へ気持ちを共有する場面がみられた.対面後には,初めて会ったときの児の様子を記録され,直接話ができ,ソーシャルメディア上でやりとりしていたことに加えさらに新たな共通点が見つかったことを喜ばれている発言があった.また同じような状況の医療的ケア児の母親と知り合えることは貴重な機会だと再確認した,との発言も聞かれた.
【考察】今回,医療ケア児をもつ母親が児を通じたつながりをもてたことで,日常生活において新たな一面が加わった.共通の話が同じ立場でできることは子育て中に孤立しやすい母親にとって重要である.母と児を中心とした家族の生活から,交流のある家族以外の他者と楽しみを共有できる生活へ変化する.
訪問作業療法において作業療法士は家族支援のひとつとして医療的ケア児の母親同士のつながりを作る支援ができると考えられる.医療的ケア児の母親同士がつながりを作ることができる機会は少ない.新型コロナウィルス感染拡大により,人との交流が制限され,さらに難しくなっている.その状況で,医療的ケア児の生活の質を向上させるために,作業療法士が安全面に配慮した上でソーシャルメディアを利用したつながりを支援していくことは母親の精神的な安定をもたらす一助となるため有効であると言える.