第56回日本作業療法学会

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[PN-10] ポスター:地域 10

2022年9月17日(土) 14:30 〜 15:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PN-10-5] ポスター:地域 10回復期病棟から訪問リハビリテーションへのシームレスな連携により, 自宅で入浴, 妻とカラオケに行くことが再開できた事例

仲野 剛由1瀧沢 幸美1石黒 望2 (1近江温泉病院 総合リハビリテーションセンター 近江訪問リハ・ステーション,2近江温泉病院総合リハビリテーションセンター)

【はじめに】作業に焦点を当てた訪問リハビリテーション(以下,訪問リハ)のOTは,ADL向上や生活範囲の拡大につながる.今回,回復期病棟入院時より本人から挙げられた目標と退院後に想定される課題を,シームレスに訪問リハのOTが引き継ぐことで,自宅で入浴が可能となり,妻とカラオケに行くことが再開できた.以下に,考察を加えて本事例の報告をする.尚報告にあたり,事例に書面と口頭にて説明し同意を得た.
【事例紹介】A氏,60代後半の男性.妻と二人暮らし.病前はADL自立しており,妻と一緒にカラオケやボーリングに行くなど活動的に過ごしていた.ボーリング中に脳出血(左視床出血)を発症.急性期病棟を経て55病日に当院の回復期病棟へ転院.約5カ月間,入院して自宅へ退院となり,退院3日後の200病日より週2回の頻度で訪問リハ(OT週1回60分,PT週1回40分)が開始となった.
【情報収集・評価】回復期病棟のOTからの生活行為申し送り表より,「自宅でお風呂に入りたい」「家族のために何かできることがしたい」と希望があり,模擬練習や代替手段の検討がされた.退院までに動線の敷居除去をする住宅改修が間に合わないこと,入浴に関しては実際の環境で練習や環境調整が必要であることから,訪問リハが引き継いで支援をした.
 訪問リハOT開始時,FIMは102点で,移動は短下肢装具と4点杖を使用して自立,ADLは入浴動作以外自立していた.Frenchay Activities Index(以下,FAI)は3点.BRSは上肢Ⅱ,手指Ⅲ,下肢Ⅲであり,感覚は表在・深部共に中等度鈍麻であった.HDS-R=15点で短期記憶の低下がみられた.Functional balance scale(以下,FBS)は33/57点と転倒リスクは高い状態であった.退院後も入院時と希望は変わらず,合意目標を「自宅で妻の助けを受けながら,入浴ができる」とした.遂行度=3/10点,満足度=1/10点であった.
【経過】退院1週間後には動線の敷居除去をされたが,退院後1カ月間は転倒が繰り返しみられた.そのため,初回はPTと合同で,環境調整や動作練習など転倒対策を行った.転倒対策と並行して2〜5回目の訪問で入浴動作評価と環境調整を行った.実際の環境では,シャワーチェアに座ると足が浮いてしまうため,浴室マットで底上げを実施.6〜10回目の訪問は,妻の介助でシャワー浴から練習を行い,浴槽への入浴動作練習を段階的に実施した.初回は,過介助になり安全性にも疑問がみられたが,260病日より軽介助で入浴ができるようになった.301病日に,医師同席でリハビリ会議を実施.妻から前向きな発言が聴かれ,本人からは「また妻とカラオケに行きたい」と希望が聴かれた.入浴目的の通所介護は終了,訪問リハは週1回の頻度に減らし,3ヶ月後には訪問リハも終了することになった.
【結果】運動麻痺とFBS=34点は初期と変わらないが,転倒することはみられなくなった.HDS-R=27点,FIM=110点と改善がみられ,FAI=14点で通所介護の外出だけでなく,妻と一緒に屋外歩行,月に数回は妻とカラオケに行くことも再開された.当初の合意目標の遂行度=8/10点,満足度=10/10点になった.
【考察】A氏は,入院時から作業に焦点を当てた介入がされたことにより,入院中に退院後を見据えた練習や環境調整が考慮された.そして,退院直後から継続して訪問リハが関わることにより,作業がスムーズに可能となり,活動に広がりがみられたと考える.また,妻の介助力やA氏と妻の関係性が良好であったことが促進因子になったと考える.在宅での作業療法の強みは,対象者の慣れた環境で直接的に作業に介入できる点である.回復期病棟の退院直後から,シームレスにOTが引き継ぐことは有益であると考える.