第56回日本作業療法学会

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[PN-11] ポスター:地域 11

2022年9月17日(土) 15:30 〜 16:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PN-11-1] ポスター:地域 11不安を呈する小脳梗塞患者の復職に向けた訪問リハビリテーション

緑川 学1 (1医療法人八千代会 ストレスケアつくばクリニック)

【はじめに】脳卒中患者にとって復職は社会参加そのものであり,生活の質の向上に関連する(Niemiら,1988).脳卒中患者の復職ニーズは高いが,諦めてしまうニーズとしても高い(澤,2009).今回,不安を呈した脳卒中患者の復職に向けた訪問リハビリテーション(以下,リハ)について検討した.なお,本報告にあたり事例の同意を得ている.
【事例紹介】基本情報:70歳代男性.X年に小脳梗塞,左椎骨動脈解離を発症し,歩行障害,左顔面神経麻痺,左難聴となる.急性期・回復期のリハ後,復職を希望し訪問リハの利用となる.病前は全活動に自立し,タクシー運転手として都内で勤務していた.訪問リハ初期評価:運動麻痺なし.屋内外は杖なしで歩行可能だが,体幹失調があり,ふらつきがみられる.階段昇降は手すりを使用すれば可能.Mini Mental State Examinationは30点,コミュニケーションは問題なし.日常生活動作や家事動作(ごみ捨て,洗濯)は自立.要支援1.復職はしたいが,復帰できるか,続けていけるか不安がある.老年期うつ尺度短縮度(以下,GDS)は2点,作業に関する自己評価改訂第2版(以下,OSAⅡ)は,有能性47点・価値70点,環境の影響20点・価値32であった.
【方針】復職に対する不安な点を事例とともに検討し,訪問リハと自己トレーニング(以下,トレ)で作業遂行の成功体験の積み重ねと問題解決能力を高め,復職をすることを目標とした.
【経過】事例との対話から通勤,自動車運転,自動車の荷台への荷物の出し入れ,体力,転倒が不安な点として抽出された.通勤を想定した支援:自宅や勤務先から最寄り駅までの歩行を想定し,屋外歩行練習(人通りの多い場所や不整地,傘さし)と階段昇降練習を実施.また,夜間歩行の自己トレを指導した.少しずつ不安が軽減し,事例自ら都内の友人との会食を実施.都内への移動や他者交流に疲労感は感じているが自信を得ていた.
自動車運転支援:訪問リハ開始前に公安委員会の臨時適性検査にて運転可能と判断されていた.停止車両を使用しての運転操作や乗降動作は問題なく可能.実車場面を客観的に評価して欲しいとの訴えがあり,同乗についての事故などのリスクと責任について説明し同意を得て,実車での運転評価(歩行練習後の疲労時や雨天時など)を実施した.疲労感や雨天時の緊張感を訴えるもRoad Testはいずれも60点であった.自己トレとして夜間の運転や運転時間延長を提案.事例自ら自宅から40分程離れた公園まで運転し,公園で体力向上に向けた歩行練習を実施.その他,自動車の荷台への荷物の出し入れ練習や健康管理,生活管理を指導した.
【結果】週1回40~60分の訪問リハを約4か月間実施した.勤務先による自動車教習所での運転評価に合格し復職が可能となった.GDSは0点,OSAⅡの有能性は70点・価値77点,環境の影響29点・価値32に改善した.「復職への不安があったが,どう問題を解決していけばいいか,健康や生活を管理していけばいいか分かった.」,「課題を見つけ達成できたことで自信となった.」と発言が聞かれた.復職から2年経過したが,現在も仕事を継続している.
【考察】訪問リハでの支援を自己トレや事例自らの活動で発展させたことで,不安の軽減と作業有能性が向上し,復職が可能となった.訪問リハは入院リハに比べ,頻度や時間は減少する.しかし,訪問リハは作業療法や自己トレが実際の場で実施することができ,学習した活動をすぐに日常生活で発展,拡大することができる利点がある.訪問リハの利点を有効に利用することができれば,事例の望む作業を獲得できる機会はさらに広がると考えられる.