第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

地域

[PN-11] ポスター:地域 11

2022年9月17日(土) 15:30 〜 16:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PN-11-5] ポスター:地域 11脳卒中後遺症をもつ受け身な若年者が家族と協力し第一歩を踏み出した症例

野出 恵美1大東 康宏2牟田 博行3苅山 和生4 (1社会医療法人若弘会 わかくさ老人訪問看護ステーション,2わかくさ大東訪問看護ステーション,3わかくさ竜間リハビリテーション病院,4社会福祉法人和来原会)

【はじめに】中途障害のある者自身が主体的となることで長期的な回復に繋がるとされており,生活期ではこの視点がより重要である.今回,脳出血発症から受け身な生活を過ごしていた症例に対し,本人の主体性,家族の介助に対する葛藤に着目して関わった結果,半年間変化のなかった生活に改善が得られたため報告する.
【症例】A氏30代男性,172cm,76㎏,BMI:25.7,両親と同居.発症前は会社員として勤務していた.右被殻出血による内視鏡下血腫除去術後,8か月の入院により入浴以外のADLが自立した.退院後は生活介護施設に週2回通所,訪問でのリハビリを週3回開始となった.左B.R.S.t上肢/手指II,下肢III,重度の感覚障害があり,Berg Balance Scale(BBS):26,FIM:81(運動:59認知:22).高次脳機能障害は処理速度,自発性の低下を認める.
【方法】半年間の経過からA氏の主体性,両親の介助に対する葛藤の変化に着目し考察する.主体性については,和田らの脳損傷による中途障害者の長期的な主体性回復のプロセスを参考とする.報告にあたり個人情報とプライバシーの保護に配慮することをA氏,両親へ説明し書面にて同意を得た.
【経過】A氏は決められた障害福祉サービスを拒否することはないが,それ以外は何もしないという日を過ごし,今後の生活や目標については具体的に考えられない状態であった.両親はA氏を応援する様子はあるが,ボタンの開け閉めや薬袋の開封,段差を含む歩行等のA氏が難渋する生活場面において過介助となっていた.解決策として,両親に訪問時の見学を促し時間がかかっても一人で行えることを伝え,13週目に両親とOTRの3者,A氏と4者での面談を実施した.この際に生活歴の聞き取りを行い,関心の高い活動を訓練の選択肢として提示し,訓練内容をA氏自身が決定し実践することとした.また普段相互で伝えていない想いを共有するために,両親のA氏を心配する想い,A氏の両親に迷惑をかけているという想い等を代弁した.さらに段差を含む歩行を両親と行うよう促したが,転倒への不安が強くこの時点では実施に至らなかった.17週目サービス担当者会議の実施を提案し,そこで現状を変化させる助言が交わされたが,A氏は躊躇している様子があった.また母親も感情的となる場面があったためA氏のペースに寄り添うこととなった.
【結果】担当者会議後,A氏はOTRに現実的な目標を伝えることが可能となった.また段差を含む移動について,特に父親がA氏に,車椅子を使用せず歩行を見守ることを伝え,見守り付き歩行へと変化した.リハビリ時のみ行っていた動作が週2回行えるようになり,頻度が約4倍に増えた.自発的に話す回数が増え,BBS:32,FIM:94(運動:64認知:30)と改善した.
【考察】A氏は介入時,将来に対し不安はあるも,すべての生活活動に受け身であり「行動を起こしづらい」和田らの示した主体性回復過程の第1段階にあった.そこで自分の行動を選択する経験を重ね「自分次第で何かが変わる」という考えに至ったことと,両親の想いに触れたことで「意欲」が高まり,生活を変化させること「行動を起こす準備段階」第2段階につながったと考える.両親はA氏の安全や生活しやすさを最優先とし,難渋する動作に手を貸していた.そこでA氏を想った様々な意見が交わされた会議をきっかけに初めて感情を表に出すことができ,介助に対する想いが変化したと考えられる.以降A氏の力を信じ,難渋する動作も近くで見守ることができるようになったと予測される.本報告は長期的な改善につながる第一歩であり,今後さらなる長期間の関わりが必要である.