第56回日本作業療法学会

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[PN-2] ポスター:地域 2

2022年9月16日(金) 13:00 〜 14:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PN-2-2] ポスター:地域 2アパシーを呈する脳血管性認知症者の在宅復帰後の支援

リハビリテーションの継続が生活意欲につながった事例

渡邊 哲也12 (1広島都市学園大学健康科学部リハビリテーション学科,2いでした内科・神経内科クリニック)

【はじめに】脳血管障害者が入院中からアパシーや抑うつを呈し,それが改善されないまま退院するケースはよくみられる.今回,脳血管障害による右片麻痺を発症し,5カ月間入院治療し,退院後,生活への関心が低く活動性が低下した事例(以下,A氏)を担当した.認知症の併発と精神活動性の低下から重度認知症患者デイケアの利用開始となり,当初デイケア活動参加などで他者交流がなく,自分や周囲に関心がない状況であった.しかしADLの維持を目的として入院時に実施していた歩行訓練の継続をOTRが提案したところ,A氏は受け身的ながらも訓練を始めた.これを契機として1年間で生活に対する意欲の幅が広がったため,介入経過と考察を交え報告する.
【事例紹介】 70歳代女性.診断名は脳血管障害後遺症,認知症.右片麻痺でBr.Stage上肢Ⅱ,手指Ⅱ,下肢Ⅲ,軽度のブローカ失語を認めた.NMスケール25/50点,N-ADL22/50点,FIM76/126点.セルフケアは左側のみで,服装は前開き服を患肢に袖を通さず肩にかけている.孤立傾向があり,ぼーっとするか頭を垂れている無為状態が多い.全体的な印象として活気がないため,CAS(標準意欲評価法)の観察評価を中心に行い,臨床的総合評価は段階3であった.なお今回の報告に際し,A氏及び家族に対して口頭で説明し,書面にての同意,及び倫理事項に関して所属施設長の承諾を得た.
【方法と経過】Ⅰ期:利用開始時,いくつかの集団活動への参加を促されるも寡黙である.Ⅱ期:移乗時ふらつきが見られるようになり,手すりを使用して立位保持,移乗訓練を開始した.導入時OTRは「今できることをしよう」と促し,「麻痺があっても歩くことができる」と繰り返し伝えた.移乗訓練が他の活動に比べ導入が円滑であったため,理由を確認すると,入院中行っていたからだと言う.OTRがADLを維持するために歩行訓練を提案すると,家にも手すりがあるからと,歩行訓練を喜ぶ.Ⅲ期:歩行訓練中に「スプーンだと食べにくい」,「右手が冷える」などの発言があり,OTRは自助具を使用し,服は患肢を通してもらうなどA氏の意思を尊重し,支持的に対応した.
【結果】デイケア開始時から1年経過し,認知機能,身体機能に著変ないが,生活と意欲に変化が見られた.NMスケール33/50点,CAS臨床的総合評価段階1.デイルーム内の移動は車椅子で自走し,ブレーキも自分で使いたいとブレーキを延長するための筒を自分で準備した.服装は,かぶりシャツを着る機会も増え,患肢も袖を通す.食事はスプーンから自助具箸に変更.また入浴は男性の介助を拒み,最近太ったと話し,自分の状況を意識するようになった.限定的ではあるが他者交流もみられるようになった.
【考察】アパシーの無力感の原因の一つに非随伴性認知がある.これは困難な課題や状況が続くと,行動や努力によって結果を良い方向に変えられないという認知である.事例は入院直後早く元に戻りたいという気持ちが強かったという.しかし思うように回復せず,無力感の心理状況で退院した可能性がある.この状況に対しリハビリテーションの継続とOTRの「できることをしよう」というフィードバックは自己肯定感を高めるのに有効であったと考える.この自己肯定感とそこから起こる発言をOTRが支持的に対応することで,前向きな心理状況が強化され,生活に対する意欲改善につながったと考えた.アパシーの本質的な改善ではなかったが,退院後などの心理状況では,本人の自己認識を高めることが生活の改善につながることを確認できた.