第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

地域

[PN-4] ポスター:地域 4

2022年9月16日(金) 15:00 〜 16:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PN-4-6] ポスター:地域 4病院・介護事業所での農作業活用の可能性と課題

滋賀県作業療法士会の3年間の活動からの考察

中井 秀昭12川崎 一平4小室 雅紀15嶋川 昌典13小川 敬之4 (1滋賀県作業療法士会,2藍野大学医療保健学部作業療法学科,3びわこリハビリテーション専門職大学リハビリテーション学部作業療法学科,4京都橘大学健康科学部作業療法学科,5医療法人弘英会さくらテラス)

【はじめに】近年,農業の担い手不足と障害者雇用を結びつける取り組みである農福連携が推進されている.加えて,農作業が有する多面的な機能を活用し,障害者雇用のみならず,高齢者,引きこもり者への支援などと結びつけた事業も展開されている.一方,病院や介護事業所における作業療法場面において,実施種目としての農作業活用は徒手的訓練や日常生活活動に比べて少なく,その活用についての現状や課題についての報告は少ない.滋賀県作業療法士会は2019年から2021年にかけて,医療・介護事業所における農作業活用実践および普及展開に関する事業を滋賀県より受託した.この事業は農作業を医療・介護事業所などで農作業を活用する方策について検討を行い,その手法について普及展開することによって,県内のリハビリテーション提供体制の充実を目的とした事業である.今回,この事業を通じて得た知見をもとに,医療・介護事業所での農作業活用の意義と課題について考察する.なお,本発表における農作業とは,農業生産の場における労働の過程からプランターや花壇での栽培,収穫物の加工,販売など関連する作業を含むこととする.
【方法】2019年度は滋賀県内の病院や通所介護事業所など計637施設に対し,施設内での農作業活用状況・課題についてアンケート調査を行った.2020年度は農作業活用の実践先行事業所への調査および,通所介護施設2施設において農作業活用を実践し,利用者への効果測定や手法の検討を行った.2021年度は病院および通所介護事業所での農作業導入支援を行った.また,3カ年の取り組み普及を目的にした研修会を実施した.なお,本発表におけるアンケート調査については対象施設からの自由意志による承諾を得て実施し,結果については匿名化された情報のみを分析して報告したものである.
【結果】2019年度事業調査では,224施設(回答率35.2%)からの回答があり,農作業実施施設は77施設(34.4%)であった.回答者の6割が農作業による利用者への効果は存在すると考えていた.また,畑の場所,管理,リスク,農作業技術に課題を感じている施設が多かった.2020年度事業における通所介護事業所の実践では,障害福祉サービス事業所との連携や農作業を一つの媒体として活用することにより多様な作業提供が可能であることがわかった.一方で,人的な環境整備も必要なことが課題として残った.2021年度事業については,病院での実践導入において,感染対策や他職種への理解などの課題が明らかになった.一方,訓練室ではみられない利用者の能力評価やリハビリ意欲の向上なども確認された.また通所介護事業所での実践導入については,職員理解の難しさや支援者の労働力確保,農作業提供側の理解の醸成などの課題が見られた.一方で,農作業を通じて小集団の会話が促進される様子や通所に意欲的な発言が確認された.また,研修会についてはのべ141名の参加があった.
【考察】病院における農作業活用は,馴染みのある作業を入院中に実施することでの意欲の向上や日常生活動作以外の活動に繋がることにより,退院支援および退院後の社会生活支援に繋がる可能性が考えられた.一方,実施のためには院内の内部調整や職員の農作業知識向上が重要であることがわかった.通所介護事業所においては,農作業により,地域との繋がりを感じ,役割の獲得に繋がることが利用者のQOL向上に繋がる可能性が考えられた.いずれにおいても,農業を実施している障害福祉サービス事業所や農業法人などとの連携およびそのコーディネートを行うことで,農作業を活用した農福連携の広がりが生まれ,結果,リハビリテーション提供体制の充実に寄与する可能性があると考えられた.