第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

地域

[PN-5] ポスター:地域 5

2022年9月16日(金) 16:00 〜 17:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PN-5-4] ポスター:地域 5介護老人保健施設における環境に焦点をあてた作業療法士の取り組み

過去5年間の文献研究から

田中 萌子12笹田 哲3 (1神奈川県立保健福祉大学大学院保健福祉学研究科博士前期課程,2株式会社ハーフ・センチュリー・モア有料老人ホームサンシティ横浜,3神奈川県立保健福祉大学保健福祉学研究科)

【はじめに】 近年,地域包括ケアシステムの運用により,介護老人保健施設(以下,老健)には①包括的ケアサービス施設,②リハビリテーション施設,③在宅復帰施設,④在宅生活支援施設,⑤地域に根ざした施設,の5つの役割が示されている.これらの役割を全うするために,リハビリテーション領域では老健利用者の活動と参加の促進が求められている.そこで本研究の目的は,作業療法士(以下,OTR)による老健に関する各報告について分析し,老健利用者の活動と参加を促進するために何に焦点をあてているかを明らかにすることを目的として文献研究を行った.なお,本研究において開示すべきCOIはない.
【方法】 文献検索は医学中央雑誌Web版(以下,医中誌Web)と全国老人保健施設協会ホームページ(以下,全老健)内の全国大会過去演題検索ページを用いた.医中誌Webでは,対象文献を原著論文に限定し,検索キーワードを「介護老人保健施設」「作業療法」として,2021年8月21日に検索した.全老健では,対象文献を抄録本文とし,検索キーワードを「作業療法」として,2021年8月21日~2021年8月31日に検索およびハンドサーチを実施した.選定基準は,著者はOTRの文献とし,検索対象期間は2017年から2021年までの過去5年間分とした.ただし,全老健はCOVID-19の影響で2020,21年は大会中止のため,2017,18,19年の発表分のみを対象とした.分析手順は文献数の集計,および各文献を研究報告と事例報告,活動報告ごとにアブストラクトテーブルを作成した.アブストラクトテーブルをもとに人間作業モデル(以下,MOHO)の構成要素である意志,習慣化,遂行能力と,環境にラベリングし分類した.
【結果】 医中誌Webでは36件,全老健では68件が対象文献となった.この文献のうち,研究報告は25件,事例報告は64件,活動報告は15件であった.研究報告のうち,実験的研究と観察的研究が8件で最も多く,次いで調査研究が4件,尺度開発が3件,質的研究と混合研究が1件ずつであった.研究報告では環境に関する報告が最も多く,次いで意志,遂行能力に関する報告が同数であり,習慣化に関する報告は0件だった.事例報告では環境に関する報告が最も多く,次いで意志に関する報告が多かった.活動報告では環境に関する報告が最も多く,次いで意志に関する報告が多かった.なお,活動報告では施設運営に関する報告が2件あり,分類不可とした.
【考察】 本研究結果より,過去5年間のうちOTRによる老健に関する報告は,6割以上が事例報告であった.事例報告では,対象者だけではなく同居家族へアプローチした事例や,意味のある作業の提供により役割の再獲得を図った事例などが報告されていた.研究報告では,生活行為向上マネジメントを用いた実験的研究や,認知症高齢者の口腔機能と下肢筋力に関する観察的研究などが報告されていた.活動報告では,老健OTRの地域活動などが報告されていた.また, MOHOの構成要素にあてはめてラベリングした結果,各報告において環境に焦点をあてた報告が一番多いことが分かった.MOHOにおいて,環境の肯定的な変化は人間に機会を与え,クライエントの作業遂行を促進するといわれている.本研究の結果から活動と参加を促進するために環境に焦点をあてた取り組みが行われていたが,どのようにして環境に焦点をあてているかについては明らかにされなかった.今後は老健OTRがどのようにしてクライエントの環境を捉え,介入に至るまでのプロセスを辿っているのかを明らかにする必要性が示唆された.