第56回日本作業療法学会

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[PN-5] ポスター:地域 5

2022年9月16日(金) 16:00 〜 17:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PN-5-6] ポスター:地域 5地域在住高齢者に対して自己効力感に着目した課題指向型アプローチを施行し,社会参加復帰に至った症例

吉原 翔太1山 健斗2 (1北里大学大学院 医療系研究科,2株式会社 ARCE 健康予防事業部 UP Life)

【はじめに】
今回,加齢による身体機能の低下に加え,外出に対する自己効力感が低下したことによる活動低下した地域在宅高齢者に対して課題指向型アプローチ(以下 TOA)を実施した.結果として,身体機能および外出に対する自己効力感(以下 SE)の向上がみられ,社会参加が促された症例を経験したため以下に報告する.
【症例紹介】
本症例は要支援2で80歳代前半の女性.X年に脊柱管狭窄症および坐骨神経痛を発症し, X+3年から週2回の頻度で当施設へ「以前のように趣味の麻雀を友人と行えるように1.5km先の施設まで徒歩で通えるようになる」ことを目標として通所開始. 初回評価ではShort Physical Performance Battery(以下:SPPB)で10/12点,快適6m歩行テストでは0.7m/s. 自宅内生活のほとんどを座位で過ごしており,歩行や持久力に関する不安から買い物などの外出に対する自己効力感が大きく低下していた.健康関連Quality of Life(以下 HRQOL)の指標であるEQ-5Dでは0.50でありVisual Analogue Scale(以下 VAS)による主観的健康感は50点であった.外出機会は公共交通機関の利用や買い物を月に数回程度で,趣味であった友人との麻雀にも参加できない状況であった.ヘルシンキ宣言に則り説明し口頭にて患者様に同意を得た.
【方法】
当施設(デイサービス)では,介入開始時に生活内で障壁となる因子を聴取した後,療法士とともに本人の趣味である麻雀施設へ徒歩で行くことを長期目標とし,介入を開始した.初期段階で本人から語られたのは買い物などに行く際,脊柱管狭窄症の特徴でもある間欠性破行による足の痛みや痺れであった.その影響もあり,外出に対するSEの低下が聴取できた.これらを考慮し,身体機能および外出に対するSEの向上を目的に課題難易度を変化させるTOAを実施した.課題の難易度調整としては,成功率7割に設定し,成功体験を積むことを優先した.初期の介入内容としては休憩を挟みながら,脚の血流循環を改善するために足首の上下運動を入れながら,セラバンドなどを使用した下肢筋力,座位での臀部にバランスデスクを敷いた体幹トレーニング等を実施した.介入中期には有酸素運動を追加し,介入後期には平行棒内での片足立ちや階段昇降訓練,段々と硬いセラバンドでの下肢筋力訓練などを実施した.
【結果】
最終評価では,SPPBは12/12点,快適6 m歩行テストは1.23m/sであった.地域在住のMinimal Detectable Changeは歩行速度が0.1m/s. SPPBが1点であるため,臨床的に意義のある最小変化量0,03以上の改善を認めた.HRQOLの指標であるEQ-5Dは0.75であり主観的健康感は70点に向上した.また,買い物の自立や歩数計を用いての散歩,地域集会に参加するなど介入以前と比較して,生活範囲の拡大を認め,外出頻度も週2〜3回に変化した.そして目標であった麻雀施設まで徒歩で通うことができた.
【考察】
本症例は心身機能低下に加え,外出に対するSEが著しく低下することによる社会参加機会が減少した症例であった.それに対し,TOAを実施することで外出に対するSEを獲得し,目標であった麻雀施設まで徒歩で通うことができた.本症例の心身機能および外出に対するSEが向上した要因として,TOAにより身体機能練習加え,外出に対するSEのための難易度調整を行ったことが大きいと考える.このことから,独居の地域在住高齢者に対するアプローチは身体機能面だけでなく,心理面も考慮し,本人の生活や目標に合わせた介入を実施することで,活動範囲を広げ,社会参加にも付与することが示唆された.