第56回日本作業療法学会

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[PN-6] ポスター:地域 6

2022年9月17日(土) 10:30 〜 11:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PN-6-5] ポスター:地域 6精神障害者の疾病要因と社会生活技能が1年以上の就労定着に与える影響の分析

野崎 智仁12平野 大輔1木原 藍子2添野 裕太2谷口 敬道1 (1国際医療福祉大学保健医療学部作業療法学科,2NPO法人那須フロンティア)

【はじめに】2020年度における精神障害者の雇用障害者数は,民間企業で88,016人(前年度比12.7%増)と増加している1).精神障害者の一般就労は,精神症状の影響ではなく,社会生活技能の高さが重要であると考えられている.Bondらは,疾病性の要因は影響せず,社会生活技能を高める支援により,精神障害者が一般就労したことを報告している2).また,障害者が一般就労し,1年経過した時点での離職率は,精神障害者が50.7%であり,他の障害より高いことが報告されている3).精神障害者が一般就労するためには,社会生活技能の高さが重要であるとされているが,就労定着との関係は明らかにされていない.本研究は,精神障害者の就労開始時の疾病要因と社会生活技能が,1年以上の就労定着にどのように影響するか明らかにすることを目的とした.
【方法】研究対象者:2009年4月からの10年間,就労移行支援事業Aを利用し,一般就労した精神障害者(ICD-10分類F10〜69)51名.研究方法:就労開始時の基本属性,就業状況,精神症状(簡易精神症状評価尺度 Brief Psychiatric Rating Scale.以下,BPRS),社会生活技能(精神障害者社会生活評価尺度 Life Assessment Scale for the Mentally Ill.以下,LASMI)を調査.分析方法:就労定着期間を従属変数,基本属性,従事作業,BPRS合計,LASMI大項目を独立変数として重回帰分析を実施.また,研究対象者を就労定着群(37名)と離職群(14名)に分け,BPRS,LASMI各項目の中央値の差をMann-whitney U検定にて分析.統計処理にはSPSS statics 27を用い,有意水準は5%未満とした.倫理的配慮:就労移行支援事業所Aの施設長及び対象者の同意を得ている.著者所属機関の研究倫理審査委員会の承認済み.
【結果】基本属性:年齢は平均31.8歳.性別は男性23名,女性28名.診断名は統合失調症29名,神経症性障害9名,うつ病8名,双極性障害5名.精神障害者保健福祉手帳等級は1級2名,2級38名,3級10名,無し1名.雇用形態:障害者雇用41名,一般雇用10名.従事作業は簡易技能26名,販売・サービス15名,事務関係5名,社会福祉2名など.重回帰分析:雇用形態が標準化係数0.456,他の項目は有意確率0.05以上となり,影響を与える因子は雇用形態(障害者雇用)以外では認められなかった.群間比較:BPRS各項目は,概念の統合障害(p=0.19),誇大性(p=0.65),抑うつ気分(p=0.12),敵意(p=0.05)以外で有意差が認められ,就労定着群の方が精神症状が重度であった.LASMI大項目は全項目において,小項目は理解力(p=0.09),曖昧さに対する対処(p=0.1)以外の38項目において有意差が認められ,就労定着群の方が社会生活技能が高かった.
【考察】精神障害者が1年以上の就労定着を果たすためには,一般就労に関する先行研究と同様に,社会生活技能の高さが関係し,また一般就労開始時までに高めておくことが重要であると考えられる.また,1年以上の就労定着には,診断名や障害者手帳については影響せず,このことも一般就労と同様に,疾病性の影響がないことを示唆している.
【参考資料】1)厚生労働省.令和2年障害者雇用状況の集計結果.https://www.mhlw.go.jp/content/11704000/000747732.pdf 2022.2.14
2)Gary R.Bond,et al.Accelerating entry into supported employment for persons with severe psychiatric disabilities.Rehabilitation psychology 1995;40(2):75-94
3)障害者職業総合センター.障害者の就業状況等に関する調査研究.https://www.nivr.jeed.go.jp/research/report/houkoku/p8ocur0000000nub-att/houkoku137.pdf 2022.2.14