第56回日本作業療法学会

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[PN-6] ポスター:地域 6

2022年9月17日(土) 10:30 〜 11:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PN-6-7] ポスター:地域 6就労支援事業所の農福連携における作業療法の役割と可能性

齋藤 久恵12河邊 宗知1里村 恵子1 (1東京保健医療専門職大学リハビリテーション学部 作業療法学科,2就労支援事業所POWOW(朋有我有))

【序論】農福連携とは「障害者が農業分野で活躍することを通じ,自信や生きがいを持って社会参画を実現していく取り組み(農林水産省)」であり,近年,取り組む福祉事業所も増えている.農福連携の現状,課題などの先行研究は,福祉,行政,民間団体などにより調査研究が多数実施されているが,精神・発達障害を対象とする就労支援事業所の作業療法士の関与についての発表は少ないため,今回ここに報告する.
【目的・方法】本研究の目的は,農福連携の一形態である委託型農業(農業者と福祉事業所の請負契約締結)における作業療法士の役割と可能性について検討することである.方法として,農福連携の関連の調査研究の文献を収集し,筆頭研究者(以下OTR)経験と照らし合わせ,他のOTRと共に考察する.尚,発表に際して所属する事業所,及び当専門職大学研究倫理委員会の承認を得ている.
【結果】就労支援事業所を含む福祉事業所の委託型農業の66%がこの10年以内に開始し,委託日数は年間3ヶ月未満が64%,月額平均工賃は16,429万円である2).事業所職員を対象としたアンケートの「農業のプラス面の効果」の「身体・健康面」は,体力が付いた,体調を崩しにくくなった,よく眠れる,「精神・情緒面」は,表情が明るくなった,感情面の落ち着き,意欲の向上,成功体験と自信,とある.当事者を対象としたアンケートの「今の仕事で好きなところ」の回答は,身体を動かせる,自分に合った仕事ができる,自然の中で仕事ができる,「以前と比べて良くなったこと」は,いろんな人と話ができるようになった,体力がついた,そして「今までの仕事で苦労したこと」は,技術の習得・効率,体力的にしんどい,とある2).OTRが委託型農業立上げから現在までの4年間の経験からも同様のことが言え,利用者の発言も当事者の結果と類似のものが多い.特に「技術の習得・効率」は手先の不器用さ,目と手の協調性の問題,こだわりなどの特性がある精神・発達障害の利用者には課題となる.開始当初OTRも農作業未体験のため,作業内容を予測した上の道具の工夫,利用者の特性に合せた対処ができず,農業者からの指示も経験に基づいた曖昧な表現であったため利用者は混乱し,農業者からは作業生産性の低さ,不出来さから委託打ち切りの話も出た.その後,農業者に各利用者の作業特性を説明し,具体的な指示方法を依頼した.同時に道具や適切な人員配置などの工夫で利用者の能力を発揮できる場面を増やすことにより,農業への積極性も高まった.現在では作業の質,量ともに向上し,農業者から任せてもらえる仕事の幅も広がり,また,農業を通した地域の人との交流も利用者の成長に繋がっている.
【考察】委託型農業では農業者,福祉事業所ともコーディネーターの必要性を求める声が多い3).それは,障害特性に応じ可能な作業に差があり,作業の分析と分解,特性に合った振り分け,農業者との交渉やクレーム等,多様な障害者が携われる仕組みを作る必要があるためである.作業療法士は作業療法評価を基礎として,道具の工夫などの環境調整や各人の特性に合わせた支援を通し,農福連携におけるコーディネーターとしての役割を十分発揮でき,作業療法の可能性を広げることになると思われる.
【参考文献】1)一般社団法人 地方自治体公民連携研究財団:農福連携推進事業等の効果等に関する調査報告書, 2017. 2) 日本基金:農福連携の効果と課題に関する調査結果, 2018. 3)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社:平成30年度農福連携における実態把握に向けた調査検討委託事業調査報告書, 2020.