第56回日本作業療法学会

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[PN-8] ポスター:地域 8

2022年9月17日(土) 12:30 〜 13:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PN-8-3] ポスター:地域 8地域在住高齢者の就労役割の有無に関連するフレイルの要因

横山 和樹1宮嶋 涼2松崎(木原) 由里子3小塚 直樹4池田 望1 (1札幌医科大学保健医療学部作業療法学科,2医療法人社団大藏会 札幌佐藤病院,3日本医療大学保健医療学部リハビリテーション学科理学療法学専攻,4札幌医科大学保健医療学部理学療法学科)

【はじめに】令和3年の高年齢者雇用安定法の改正において,定年を60歳から65歳に延長すること,65歳から70歳までの希望者が就労を継続することが推奨され,高齢者の労働人口の増加が見込まれている.高齢期の就業期間の延長は,健康寿命の延伸(Okamoto et al., 2018)や認知機能の維持(Bonsang et al., 2013)等の個人の健康に良い影響を与える.その反面,就労を継続することにより,仕事のストレスや職業上の危険が維持され,また余暇活動に従事する時間が減少することも想定される.しかしながら,就労において社会的な役割を担い,他者との関係性を維持・構築することは,社会参加に直接的に関与するため,高齢者の心身機能や活動を賦活し,フレイルの予防に有効である可能性は高い.本研究では,地域在住高齢者における就労役割の有無に関連するフレイルの側面を探索的に明らかにすることを目的とした.
【方法】対象は本学が主催する招聘型調査測定会に参加した65歳以上の地域在住高齢者171名とした.そのうち,脳卒中や認知症等の既往をもつ者,要介護認定を受けている者を除外し,最終的に122名を解析対象とした.調査項目として,「就労役割の有無」を聴取した後に,基本属性として「年齢」「性別」「教育年数」「居住形態」,フレイルの身体的側面として「歩行速度」「握力」「転倒」「低栄養」,精神・心理的側面として「認知機能(MMSE)」「抑うつ状態(GDS15)」,社会的側面として「閉じこもり」「グループ活動の参加頻度」,さらに生活機能を「老研式活動能力指標(古谷野 他,1993)」で評価した.「転倒」「低栄養」「閉じこもり」の評価には,介護予防チェックリスト(新開 他,2013)を用いた.データ解析として,就労役割を有している者を就労群,有していない者を非就労群とし,Mann-Whitney U検定もしくはχ2検定を用いて,各変数の群間比較を行った.次に,「就労役割の有無」を従属変数,群間比較で有意性が認められた変数を独立変数,年齢・性別・教育年数・居住形態を共変量とした二項ロジスティク回帰分析(変数増加法:尤度法)を行った.全ての解析において有意水準は0.05とした.本研究は札幌医科大学倫理委員会の承認を得た上で実施した.
【結果】対象者122名(男性48名,女性74名)の平均年齢は72.68±3.97歳であり,就労群41名(33.6%),非就労群81名(66.4%)で分けられた.両群間の年齢・性別・教育年数・居住形態に有意差は認められなかった.各変数を群間比較した結果,就労群は非就労群を比較して有意に,歩行速度(p=.007)が速く,低栄養(p=.035)および抑うつ状態(p=.029)のスコアが低かった.また,二項ロジスティック回帰分析の結果,就労役割の有無に影響を与える因子として,抑うつ状態(p=.034, OR=1.290, 95%CI=1.020-1.633),および低栄養状態(p=.046, OR=1.752, 95%CI=1.011-3.034)が抽出された.
【考察】就労群は非就労群と比較して,低栄養状態や抑うつ状態といったフレイルの程度が有意に低いことが明らかになった.先行研究では,男性は退職,女性は社会活動の喪失により抑うつ状態が助長されることが指摘されている(Sugihara et al, 2008).また,高齢者の孤食が低栄養や抑うつ状態を引き起こすことも指摘されている(Kuroda et al. 2015).以上より,高齢期における就労役割への従事は,社会的孤立を防ぎ,低栄養や抑うつ状態の予防に寄与する可能性が想定される.今後は,高齢者の就労役割の維持が将来のフレイルの予防に寄与するのか縦断的調査の中で性差も含めて明らかにし,作業療法で高齢期の就労役割を支援することの意義を検討したい.