第56回日本作業療法学会

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ポスター

地域

[PN-8] ポスター:地域 8

Sat. Sep 17, 2022 12:30 PM - 1:30 PM ポスター会場 (イベントホール)

[PN-8-7] ポスター:地域 8高次脳機能障害を有する当事者家族の作業機能障害の実態の質的検討

吉本 裕介1寺岡 睦2京極 真2 (1株式会社奏音いろは訪問看護リハビリステーション,2吉備国際大学大学院保健科学研究科)

背景と目的
 高次脳機能障害を有する当事者家族に対する支援の検討は,作業療法を実施するうえで重要な課題である.高次脳機能障害の当事者は,自身の障害を自覚することが難しいため,家族は病前とは異なる性格や理解し難い行動に戸惑い,その対応に追われる.家族は,当事者へのケアに取り組み,当事者の生活を全面的に支えながら自身の生活を営まなければならず,作業機能障害に陥っていると考えられる.
 作業療法は作業的存在としての人間を理解し,作業を通して健康や幸福を促進する実践である.作業とは人間の経験であり,この作業で生じる問題を作業機能障害と呼び,作業不均衡,作業剥奪,作業疎外,作業周縁化の4種類に整理されている.作業機能障害は疾患や障害の有無に関わらず生じ,健康状態や幸福感の低下に影響を与える.しかし,作業の視点による当事者家族の生活についての研究は少ない状況である.
 本研究の目的は,高次脳機能障害を有する当事者家族の作業機能障害の実態を解明し,当事者家族にとって,ケアとはどのようなものかを探索的に明らかにすることである.
方法
 本研究は,構造構成的質的研究法(Structure Constructive Qualitative Research Method,以下,SCQRM)を採用した.データ分析ではSCAT(Steps for Coding and Theorization)でテーマ・構成概念を作成し,SCQRMでそれをもとに大カテゴリーと中カテゴリーを生成した.参加者は,関心相関的サンプリングで収集し,事前に作業機能障害を体験しているかを明らかにするために,作業機能障害の種類と評価(Classification and Assessment of Occupational Dysfunction)を配布・回収し,合計得点がカットオフ値(52点)を越えた方に研究協力を依頼した.
結果
 研究参加者は4名であった.参加者と当事者との関係は,母親と娘が1人,妻と夫が3人であった.年齢は30歳代から60歳代であった.結果として,研究参加者は,【作業バランスの変化】,【新しい人間関係の構築や社会参加の獲得】,【アイデンティティの形成】,【当事者や現状に対する受容と苦悩というアンビバレントな感情】,【家族や親族や新しい人間関係のつながりの強化と構築】,【ケアのコントロール感の獲得】を経験しながらも,【作業不均衡】,【作業剥奪】,【作業疎外】,【作業周縁化】という作業機能障害に苦悩していることが示された.また日常の作業は,ケアによって多大な影響を与えられていることが示された.
考察
 本研究では,高次脳機能障害を有する当事者家族は,【作業不均衡】,【作業剥奪】,【作業疎外】,【作業周縁化】を経験し,苦悩することが明らかになった.この結果は,先行研究と同型であった.その理由として,作業機能障害の経験は一定の共通パターンとして示されるものであると考えられた.
 当事者家族の日常の作業は,当事者へのケアを行う中で共作業化していき,当事者の作業と一体として捉える観点が必要であることを示していた.当事者へのケアという共作業は,適切に遂行することが難しく,作業機能障害の大きな要因となるだけでなく,医療従事者と当事者家族の対立の要因にもなっていた.しかし当事者家族は,自身の作業機能障害を改善するために,日常の作業やケアについて,互いの経験や知識を共有して医療従事者と信頼関係を築き,協働による問題解決を行う支援を求めていると考えられた.