第56回日本作業療法学会

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[PN-9] ポスター:地域 9

2022年9月17日(土) 13:30 〜 14:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PN-9-3] ポスター:地域 9作業の成功体験から意味のある作業の表出に至った事例

門田 剛1朝日 まどか2 (1合同会社LOCUSデイサービスセンタープロディスDO,2北海道医療大学リハビリテーション科学部)

【はじめに】通所介護サービス(以下.DS)の利用者の多くは,機能改善や維持を求める事が多い.今回,機能回復を望むA氏に対し,できることが期待された作業として「食器洗い」に介入した結果,意味のある作業の表出に至ったため報告する.
【事例紹介】A氏,60代前半,右利き,男性,要介護5.長女と二人暮らし.X年Y月Z日に右眼の動きが悪く,ふらつきがありB病院を受診,ラクナ梗塞と診断され入院となる.入院経過として,保存的内科的治療で状態は安定.病識・自発性低下,左眼は動眼神経麻痺が残存,ADLは見守り~軽介助レベルとなる.Z+117日で退院され,身体機能低下の予防目的でZ+142日から週3回DSの利用開始となる.また,訪問リハビリを週2回(ST:1回,PT・OT:隔週)利用となる. 病前はCADを使った設計の仕事をしていた.8年前に妻が他界した後は,長女と二人暮らしをし,家事全般はA氏が担っていた.娘とは温泉旅行に行く事を楽しんでいた.
【OT評価・計画】心身機能面は,構音障害,失語症,右上下肢に失調が残存するが麻痺は軽度,前頭葉機能障害を認める.活動・参加面は,会話は頷きが多い.施設内の活動は促しなしでは一人でいることが多い. ADLは BI85点(減点:入浴,階段昇降,排便コントロール),移動は室内見守りで独歩.自宅では全く家事を行わないものの長女の家事のやり方に口出しをする等,自尊心が高く亭主関白な姿が窺えた.また長女は家事が出来るようになる事を期待していたが,A氏からは患側回復以外のニーズが聞かれず,長女が期待する「食器洗い」が出来ることを目標として提示し,それにA氏も合意した為,訓練することとなった.倫理的配慮として,ご本人ご家族へ本発表の趣旨を説明の上,同意を得た.
【経過】初回介入では,下膳動作を行った.水を含んだ食器ではこぼす可能性があったため,水分を含まないものを運ぶようにした.介入時の反応は頷く程度であった.介入3回目から,施設内で食器洗いを行った.失調で泡が飛び散る等あった為,食器をシンクに置き,右手は補助手とし,左手を動かすよう指導すると「意外とできる」と話された. 訪問リハビリに情報提供し,長女に食器洗いの現状を確認してもらったことをきっかけに,汁の入っていない食器の片付けと週1回の食器洗いが自宅の役割となった.その後,食器洗いについて尋ねると「本当はあまりやりたくはないんだよね」と笑って話された. A氏に新たにやりたい作業について尋ねると 「仕事かな.PC」と話された.A氏にとって,仕事は退院後すぐに復職できると思っていた作業であり,PCは仕事で使っていた道具で「ずっとやっていなかったから」と話された.
【考察】A氏は病気により障害が残存したことで,病前行ってきた家事は出来ないと判断し,自身の患側を回復させることに専念する役割を自身に課したのではないかと考えられる.また,病前に担ってきた家事は,娘のやり方に口出しをする形でしか参加する方法が見つからなかったのではないかと思われる.しかし,今回DSで長女から期待された食器洗いを訓練し,それが成功したことで,自己の能力を再確認することができ,本来行いたかった仕事で使用するPCも行えるのではないかという自己への期待が芽生え,挑戦しようという前向きな気持ちに変化したのではないかと考えられる.DSの利用者の多くは,機能回復をデマンドとしているが,機能回復を望む背景に何があるのかを,常に意識した関りを持つことが重要であると考えられた.