第56回日本作業療法学会

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ポスター

基礎研究

[PP-1] ポスター:基礎研究 1

Fri. Sep 16, 2022 2:00 PM - 3:00 PM ポスター会場 (イベントホール)

[PP-1-5] ポスター:基礎研究 1急性期において対象者は目標設定への参加をどのように経験しているのか

須藤 梨佳1清水 一輝2 (1地方独立行政法人 岐阜県立多治見病院リハビリテーション科,2愛知医療学院短期大学)

【背景】対象者の主体性が重要となる作業療法では,対象者と療法士が相互交流的に意思決定を行うshared decision making model(以下SDM)を用いて目標設定を行うことが理想であると言われている(齋藤佑樹,2014). 急性期の作業療法では,療法士主導で目標設定を行うpaternalism modelを用いる場面は少なくないが,paternalism modelで決めた目標を達成し,対象者から先の見通しに対する発言が生じた時には,早急にSDMを用いて目標設定をする必要があるとされている(竹林崇,2019).SDMを実践する上で必要な療法士の行動や課題(尾川達也,2018),患者参加の促進因子と阻害因子(藤本修平,2018)などが療法士を研究対象として明らかにされているが,目標設定への参加を促すことによる対象者の心理的変化や行動変容に関して,対象者本人を研究対象として明らかにしている報告は見当たらない.
【目的】療法士が目標設定に対象者の参加を促す過程で,対象者にどのような心理的変化があるのか,対象者がどのような経験をしているのかを明らかにし,急性期からの対象者の心身状態を踏まえたより良い目標設定の方法を検討することを目的とする.
【方法】身体障害による入院経験があり,作業療法実践の中で目標設定に参加できたA氏を対象とした.対象者に書面と口頭で研究について説明し,同意を得てからインタビューを実施した.インタビューの内容は,作業療法の経験によってどのような気持ちの変化があったか,目標を決めたことがどのような経験になったかなどである.インタビューデータの分析は比較的小規模な質的データから理論を構築することができるSCATを用いた.なお,本研究は所属機関の倫理委員会の承認を得て実施した.
【結果】以下は代表的なストーリーラインであり,〈〉はテーマを示す.〈医学的に不安定な時期から始まる受動的なリハビリテーション〉によって,A 氏は「今よりもよくなるんじゃないか」という〈改善への期待〉を抱いていた.〈生命維持を目的とした介入から身体機能改善を目的とした介入への変化〉は,A氏に〈想像以上に〝動かない〟身体〉をもたらした.A 氏は〈「現状を受け止め何かしなければならないけど,自分ではできない」葛藤〉を抱えており,〈paternalism modelによる療法士からのプログラムの提案〉は,A氏にとって〈納得できる説明〉となった.後に機能訓練の回数
を決めるといった〈意思決定の部分的参加〉が可能となり,具体的な〈希望の表出による目標設定への参加〉へ繋がった.〈目標の可視化,効果測定,振り返りの過程〉の中で,〈他者フィードバックによる認められる経験〉が,A氏に〈目標共有意識の芽生え〉をもたらした.
【考察】医学的に不安定な状況での受動的なリハビリテーションは対象者に把握可能感や僅かな希望をもたらす可能性が示唆された.機能訓練の回数を決めるなど,対象者が意思決定に部分的に参加することが,自らの目標に思いを馳せる状況作りに関与していた可能性があるため,療法士主導でプログラムを提案する際にも,対象者の意思が部分的に組み込まれるようにすることが重要だと考えられた.対象者と目標を共有するには,目標を設定し,決定事項を共有して,再評価する時期を設定するだけではなく,他者から認められる経験が重要であると考えられた.