第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

基礎研究

[PP-3] ポスター:基礎研究 3

2022年9月17日(土) 12:30 〜 13:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PP-3-3] ポスター:基礎研究 3パーキンソン病患者に対する3D Arterial Spin Labelingを用いた脳血流変化の計測に向けた予備的研究

健常成人を対象として

國重 雅史1関川 陽平1鈴木 康子2久野 郁子2矢部 仁23 (1文京学院大学保健医療技術学部作業療法学科,2埼玉県総合リハビリテーションセンター作業療法科,3つくば国際大学医療保健学部診療放射線学科)

【はじめに】現在,fMRIの撮像法としてBOLD法が最も知られている.従来の撮影方法では,脳画像に歪みの問題がある.また,結果の確認に時間を要する.一方,3D Arterial Spin Labeling(ASL)法は,脳画像に歪みも少なく短時間に行える(藤原ら,2020).そのため,臨床現場での活用が期待されている.
 パーキンソン病は,脳機能との関連が解明されている部分はあるものの,未だ不明な点が多い.上肢の単関節の運動トルクとパーキンソン病の重症度は有意な相関があることが報告されている(M.Wilson et al.,2020).パーキンソン病患者の重症度に大脳皮質の左右差,小脳の機能の低下が関与しているかを明らかにしていきたい.上肢の単関節の運動であればfMRI内で計測が可能であることから,「手指のグリッピング」,「手関節の掌背屈」の2課題を設定した.本研究では,パーキンソン病の脳機能の左右差を検討する予備研究として,健常成人を対象に手指のグリッピング,手関節の掌背屈時における 3D ASLでの脳血流変化と計測時間について報告する.なお,本研究は,埼玉県総合リハビリテーションセンターの倫理審査委員会の承認(承認番号:R3-09)を得て実施した.
【方法】対象者は同意が得られた21歳~33歳の健常成人5名(男女比1:4,右利き)とした.課題は右手指のグリッピング,右手関節の掌背屈を用いた.
脳血流変化の計測には1.5テスラのMRI装置を使用した.実験条件は,Slice Thickness : 3.8mm,Resolution : 512Points×4Arms,NEX : 4,FOV : 240mm,Band Width : ±62.5kHzを固定とし,Post Labeling Delayを1525msecに設定し,安静時と課題実施時のASL撮影を行なった.
実験プロトコルは,① 形態画像として3D T1 矢状断面像を撮影する.② 安静時ASLを撮像する.③ 課題ごとのASL撮影を連続で行い,脳血流変化のマップを作成し,賦活部位の信号値の変化量を測定する.④ 3D T1 矢状断面像構造画に安静時ASLで撮像したものを合成する.⑤ 課題実施中と安静時のデータを減算した3Dデータを前額面,矢状面,水平面の3方向で修正し,賦活部位の解剖学的マッピングを行う.データ分析として,マッピングした画像を比較し,各対象者の賦活部位を確認した.
【結果】両課題の計測時間は,合計で15分間であった.課題実施中の脳血流変化から安静時の脳血流変化を減算した画像に3DT1画像を合成した.3DデータであるT1WI,ASLの値を前額面,矢状面,水平面の3方向で調整すると賦活部位の解剖学的マッピングがより明らかになった.そして,全ての対象者で右手指のグリッピング,右手関節の屈伸共に,右手の支配領域である一次運動野と補足運動野,対側小脳の賦活が確認できた.
【考察】脳の還流画像である3D ASLを用いて,手指・手関節の運動時による脳の賦活部位を表現することを試みた.短時間での計測データでも手指・手関節の動きによって支配領域である一次運動野と補足運動野,対側小脳の部位に血流が増加し,高信号としてとらえることができた.3D ASLは従来のfMRIとは違い磁化率の違いによる画像の歪みがほとんど見られないのが特徴である.そのため,骨に囲まれた小脳などの観察もBOLD法に比べ容易で,計測にかかる時間が短く,疾患を持っている対象者での計測も実現可能であることが示唆された.今後は,軽度から中等度のパーキンソン病患者への3D ASLを用いた上肢運動時の脳活動を計測し,個人の脳活動と症状の事例検討,運動機能の左右差と脳血流の変化を検討していく.