第56回日本作業療法学会

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ポスター

基礎研究

[PP-3] ポスター:基礎研究 3

2022年9月17日(土) 12:30 〜 13:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PP-3-4] ポスター:基礎研究 3回復期リハビリテーション病棟患者における入院時のQOLと不安との関係について

佐貝 拓郎12泉 良太2 (1JA静岡厚生連 遠州病院リハビリテーション科,2聖隷クリストファー大学大学院リハビリテーション科学研究科)

【背景】
回復期リハビリテーション病棟(以下,回復期リハ病棟)患者のQOLは身体的な満足感は得られても精神面の満足感は得られていないと報告されている(千葉,2013).そのため,回復期リハ病棟患者のQOL向上を図るためには,身体機能だけでなく精神面に配慮することが肝要であると考える.特に不安は不必要な過覚醒緊張状態を持続させ,リハ医療の効果を悪化させる(矢崎,2018).精神面は,リハ介入を進める上で重要性が高いにも関わらず,研究報告は少ない.本研究では回復期リハ病棟患者における入院時のQOLと不安の各相関について調査することを目的とした.
【対象と方法】
対象は,当院回復期リハ病棟に入院した脳血管疾患と運動器疾患とし,現病歴・既往歴で医師による精神疾患の診断がなく,認知機能が保たれている(MMSE:24点以上)者とした.調査項目は,QOLはMOS Short-Form 36-Item Health Survey(以下,SF-36)を用いた.SF-36は健康全般に関する主観的内容の計36項目で構成される.項目は,身体機能:PF,日常身体的役割機能:RP,体の痛み:BP,全体的健康感:GH,活力:VT,社会生活機能:SF,日常精神的役割:RE,心の健康:MHの8領域に分類される.結果を国民標準値に基づくスコアリングによって換算(国民標準値50点)し,点数が高ければQOLが高いことを示す.新版 STAI 状態-特性不安検査(以下,STAI)は計40項目の4件法で状態不安と特性不安を評定する.状態不安は特定場面の一時的な不安反応を示し,特性不安はその人自身の性格としての不安傾向を示す.両尺度の得点範囲は20~80点であり,得点に基づいてⅠ~Ⅴ段階に区分し,点数が高いほど不安が高いことを示す.統計解析はSF-36,STAIの各変数の関係についてSpearmanの順位相関係数を用い,有意水準は5%とした.なお,統計ソフトはIBM SPSS Statistics Ver24 を使用した.倫理的配慮として,A病院とB大学の倫理委員会の審査と承認を得て実施した.
【結果】16名(女性12名,整形疾患11名,年齢76.0±6.0歳,発症から回復期リハ病棟までの転院期間:26.1±11.2日,MMSE:27.4±1.8点,FIM運動:59.2±14.0点,FIM認知:31.6±4.0点,FIM合計:90.6±16.6点)が対象となった.各項目の平均点はPF:19.9±15.1点,RP:25.5±15.6点,BP:35.1±13.2点,GH:47.4±10.8点,VT:34.5±14.3点,SF:44.5±7.8点,RE:30.8±16.4点,MH:42.7±13.0,状態不安:45.0±8.6点,特性不安:43.9±10.6点を示した.各相関は,SFと状態不安(r=-0.55,p<0.05),MHと特性不安(r=-0.59,p<0.05),で負の相関を認めた.
【考察】入院時のQOLはPF,RPの身体機能で低値を認め,GH,SF,MHの精神面に関わるQOLは標準値より低いが,身体機能よりも高値を示した.状態不安・特性不安共にⅢ段階の中等度不安を認めた.患者は入院や面会制限で友人・家族と交流が阻害されたことで,状態不安と負の相関があったと考えられる.長沼(2009)は一般人も環境要因でMHと特性不安に負の相関が認められたと報告し,本調査では,入院する環境変化が,患者を神経質や憂鬱な気分へ陥らせ特性不安と負の相関があったと考える.入院患者は疾患の心配や生活への自信のなさが不安を増強させていると報告されており(渡辺,2003),入院時のQOLにおいては,身体機能より精神面が不安をより増強させている可能性が示唆された.入院時より身体機能・ADL介入と並行して,患者の社会交流や環境変化による精神面の変化に寄り添う配慮がQOL向上の視点で重要ではないかと考える.今後は縦断的に評価し,不安がQOLにどのような影響を及ぼしているか調査をしていきたいと考える.