[PP-3-5] ポスター:基礎研究 3作業療法士が現場で作製可能な肘伸展固定スプリントの有用性について
アンドロイドモデルでの運動検証に基づいて
【背景と目的】
脊髄損傷や中枢神経性麻痺者における上肢に対する治療上,肩関節周囲の筋賦活や肩関節痛の予防・軽減の為,肘関節伸展固定を施す事でその課題解決に資する可能性を経験的に感じることがあり,第37回日本義肢装具学会学術大会において具体的なスプリントデザインの創出について報告1)した.但し,その身体構造機能的な因果論についての検証が不十分であった事と,臨床でより短時間で作製可能な仕様とする必要性があった事から,それら課題解決を進めた結果を報告する.
【アンドロイドモデルでの運動検証】
肘関節の運動条件が肩関節に与える影響をモデル上で検証した.尚,アンドロイドモデルとは解剖学と徒手療法の情報を元に力学的観点から必要最小限度の構成要素で生体機構を再現し,それぞれの構成要素がどのように機能へ関与しているか知る事を目的に構造化された生体機構アンドロイドのことである.臨床的には肩挙上時に肘関節が先行的に屈曲し,挙上努力を強いれば強いる程,肩の挙上ではなく肘の屈曲を来す現象に苦慮してきた.その為肘の屈筋との関連性に着目した.検証では肘の屈曲は主に上腕筋によって為されているが,上腕二頭筋は肘の屈曲に関しての関与率は低く,同時に肩関節をわずかながら屈曲させる現象を確認した.この際肩甲上腕関節の適合性を回旋筋群により十分確保できない場合,上腕二頭筋の出力により肩甲上腕関節の適合性は破綻することが確認できた.これにより相対的に関節健全性を確保した肘関節の運動が優位となる可能性があった.また,これにより脆弱化した肩関節の機能改善上,肘関節の伸展位を確保する事で肩甲上腕関節の逸脱を防止する必要があると考えられた.
【スプリントの仕様変更】
本スプリントは先行報告1)の通り,支柱部を外側片持ち構造とし,両側支柱の場合体側部と干渉する状況を回避している.上腕及び前腕カフ部は対象者の腕にモールディングすることで作製される.本スプリントの使用は必要時迅速に為される必要があるが,これまで作製時間を40分程度要する事が課題であった.この課題に対して支柱部を事前に作製しプレカットしたカフ部と共に準備しておくことで迅速な提供が可能となると考えた.又,支柱とカフ部の接合をφ15mmの小球材を介して処理することで接着性及び位置決め調整処理が容易となり,また使用後の切り離しも容易になる事から,場合によっては支柱部の再利用が可能となる仕様となった.よってより迅速なスプリントの提供が可能となった.
【まとめと考察】
今回の検証の範囲では,肘の伸展位確保は脆弱化した肩の機能改善を進める上で前提的な必須要素である可能性が高いことが分かった.今後,継続的な検証を進めていく必要はあるものの,先行して進めてきた具体的なスプリントデザインについても作製時間を含め現実的に臨床活用可能な水準となってきている.現段階の仕様であれば,実際の対象者に対して行う最終作製段階自体は概ね10分から15分程度で完了するものとなっている為,医療機関の臨床場面を想定しても現実的な活用が可能と考えられる.今後,臨床での検証も含め課題解決を果たす為,更なる研究・検証を進めていきたい.
【参考文献】
1)小森健司,他 第37回日本義肢装具学会学術集会抄録集,2021.
脊髄損傷や中枢神経性麻痺者における上肢に対する治療上,肩関節周囲の筋賦活や肩関節痛の予防・軽減の為,肘関節伸展固定を施す事でその課題解決に資する可能性を経験的に感じることがあり,第37回日本義肢装具学会学術大会において具体的なスプリントデザインの創出について報告1)した.但し,その身体構造機能的な因果論についての検証が不十分であった事と,臨床でより短時間で作製可能な仕様とする必要性があった事から,それら課題解決を進めた結果を報告する.
【アンドロイドモデルでの運動検証】
肘関節の運動条件が肩関節に与える影響をモデル上で検証した.尚,アンドロイドモデルとは解剖学と徒手療法の情報を元に力学的観点から必要最小限度の構成要素で生体機構を再現し,それぞれの構成要素がどのように機能へ関与しているか知る事を目的に構造化された生体機構アンドロイドのことである.臨床的には肩挙上時に肘関節が先行的に屈曲し,挙上努力を強いれば強いる程,肩の挙上ではなく肘の屈曲を来す現象に苦慮してきた.その為肘の屈筋との関連性に着目した.検証では肘の屈曲は主に上腕筋によって為されているが,上腕二頭筋は肘の屈曲に関しての関与率は低く,同時に肩関節をわずかながら屈曲させる現象を確認した.この際肩甲上腕関節の適合性を回旋筋群により十分確保できない場合,上腕二頭筋の出力により肩甲上腕関節の適合性は破綻することが確認できた.これにより相対的に関節健全性を確保した肘関節の運動が優位となる可能性があった.また,これにより脆弱化した肩関節の機能改善上,肘関節の伸展位を確保する事で肩甲上腕関節の逸脱を防止する必要があると考えられた.
【スプリントの仕様変更】
本スプリントは先行報告1)の通り,支柱部を外側片持ち構造とし,両側支柱の場合体側部と干渉する状況を回避している.上腕及び前腕カフ部は対象者の腕にモールディングすることで作製される.本スプリントの使用は必要時迅速に為される必要があるが,これまで作製時間を40分程度要する事が課題であった.この課題に対して支柱部を事前に作製しプレカットしたカフ部と共に準備しておくことで迅速な提供が可能となると考えた.又,支柱とカフ部の接合をφ15mmの小球材を介して処理することで接着性及び位置決め調整処理が容易となり,また使用後の切り離しも容易になる事から,場合によっては支柱部の再利用が可能となる仕様となった.よってより迅速なスプリントの提供が可能となった.
【まとめと考察】
今回の検証の範囲では,肘の伸展位確保は脆弱化した肩の機能改善を進める上で前提的な必須要素である可能性が高いことが分かった.今後,継続的な検証を進めていく必要はあるものの,先行して進めてきた具体的なスプリントデザインについても作製時間を含め現実的に臨床活用可能な水準となってきている.現段階の仕様であれば,実際の対象者に対して行う最終作製段階自体は概ね10分から15分程度で完了するものとなっている為,医療機関の臨床場面を想定しても現実的な活用が可能と考えられる.今後,臨床での検証も含め課題解決を果たす為,更なる研究・検証を進めていきたい.
【参考文献】
1)小森健司,他 第37回日本義肢装具学会学術集会抄録集,2021.