第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

基礎研究

[PP-4] ポスター:基礎研究 4

2022年9月17日(土) 13:30 〜 14:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PP-4-2] ポスター:基礎研究 4注意の焦点が主動筋と近接筋の皮質脊髄路興奮性に与える影響について

松本 杏美莉1小川 明莉1大島 千尋1入江 啓輔1梁 楠1 (1京都大学大学院医学研究科 人間健康科学系専攻 認知運動機能制御科学研究室)

【はじめに】
 リハビリテーション治療では対象者の機能改善を効果的に促進する方法が様々な視点から考えられており,その中で,注意の焦点(focus of attention: FOA)の効果が報告されている.一般には,自身の身体に注意を向ける(internal FOA: IF)よりも運動の結果に注意を向ける(external FOA: EF)方が,優れた運動パフォーマンスおよび効率的な筋出力を呈すとされている.しかし,FOAのパフォーマンス向上効果を最も効果的に引き出すことのできる環境設定や課題条件に関する議論はこれまで進んでおらず,筋収縮様式の違いがFOAに与える影響も十分に分かっていない.
【目的】
 FOAのパフォーマンス向上効果を効果的に引き出す課題条件として,筋の収縮様式の違いに着目し,経頭蓋磁気刺激法を用いて課題主動筋および近接筋に投射する皮質脊髄路の興奮性変化を評価することで,FOAの中枢メカニズムを明らかにすることを目的とする.
【方法】
 本研究は所属機関の倫理審査委員会の承認を得て,事前に十分な説明を行い文書にて同意を得られた健常成人16名(26 ± 7歳,全員右利き)を対象とした.右示指の外転運動を用いて等張性および等尺性収縮を行い,それぞれ示指の橈側面に設置されたスポンジまたは木片を押すよう指示した.被験者は45 BPMのメトロノームのリズムに同期した聴覚信号に反応し,1500 ms以内に最大随意収縮の10 %に達するよう示指を外転させた.その際,EF条件ではスポンジや木片にかかる圧,IF条件では示指の運動に注意を向けるよう指示した.経頭蓋磁気刺激は運動の開始直前(筋放電開始の70 ms前)に左一次運動野に与え,運動誘発電位(motor evoked potential: MEP)は主動筋である右第一背側骨間筋(first dorsal interosseous muscle: FDI)と近接筋である右短母指外転筋(abductor pollicis brevis muscle: APB)および右小指外転筋(abductor digiti minimi muscle: ADM)から記録し,皮質脊髄路の興奮性を評価する指標とした.
【結果】
 主動筋のFDIについて,課題遂行時のMEP振幅は安静時より有意に増大し(P < 0.05),また,等張性収縮課題ではIF条件よりEF条件の方がMEP振幅は有意に増大したが(P < 0.05),等尺性収縮課題ではFOA条件間で有意差はなかった.課題遂行時の近接筋について,APBのMEP振幅は安静時より有意に増大した一方(P < 0.05),ADMのMEP振幅は安静時と有意差はなかった.また,APBとADMのMEP振幅は等張性および等尺性収縮課題においてそれぞれFOA条件間で有意差はなかった.
【考察】
 本研究によって,FOAが皮質脊髄路の興奮性に与える影響は,課題主動筋では筋収縮様式の違いによって異なる一方,近接筋ではその傾向がみられないことが示され,FOAの効果が課題に関係する筋に特異的に生じている可能性が示唆された.また,先行研究では示指屈曲において近接筋の周辺抑制が示されている一方,示指外転を用いた本研究ではその傾向がみられなかったことから,周辺抑制は運動の方向や種類に依存して発現している可能性が考えられた. FOAが主動筋および近接筋に与える影響を明らかにした本結果は,臨床場面における教示方法や訓練内容への応用など,対象者の機能改善を促す効果的なリハビリ法を考案する際の一助になるのではないかと考える.