第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

基礎研究

[PP-5] ポスター:基礎研究 5

2022年9月17日(土) 15:30 〜 16:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PP-5-2] ポスター:基礎研究 5男性独居高齢者の被援助志向性が日常的な作業の意味・機能・形態に与える影響についての質的研究

白木 望1田島 明子2 (1医療法人松田会 介護老人保健施設 エバーグリーン・ヤギヤマ,2湘南医療大学)

【はじめに】独居高齢者は増加傾向にあり介護保険認定を受けながら独居を継続している後期高齢者も少なくない.独居生活を続けることで社会的孤立や孤独死などに至る事例も増加し社会問題となっているが支援の受け入れには本人の被援助志向性が大きく関与することが明らかとなっている.男性の独居高齢者では被援助志向性が低く支援を拒否する場合が少なくない.また,独居生活が真にネガティブな経験として評価されるべきかについては慎重な検討が必要であり対象者のことを十分に理解できていない状態では適切な支援が困難になると推測される.作業療法における先行研究では地域在住の高齢者の生活満足感や独居高齢者の生活様式を調査したものは存在するが,男性独居高齢者の被援助志向性が日常的に取り組んでいる作業の意味・機能・形態に与える影響について質的に研究したものは見当たらない.それらを明らかにすることで男性独居高齢者への適切な支援の示唆を得ることを本研究の目的とする.
【対象】目的的サンプリング法により筆頭筆者の勤務する法人内事業所を利用する75歳以上で介護保険認定を受けている男性独居者のうち研究参加同意が得られた3名を対象とした.本研究は医療法人松田会倫理審査委員会の承認を得た後に実施した.
【方法】対象者の自宅にて半構造化インタビュー調査を平均100分実施.許可を得て音声を録音した.インタビュー内容は,1)被援助志向性について高齢者用被援助志向性評価尺度を用いて質問,2)作業質問紙を使用し日常的作業を振り返り,その後対象者にとって大切な作業に焦点化,その作業の意味・機能・形態についてインタビューガイドを用いて質問した.1)を点数化,2)は音声データを逐語録化し,研究目的に対応したデータについて質的帰納的に分析した.質的研究に精通する研究者からフィードバックを受け結果の厳密性を高めた.
【結果】3名の平均年齢は86±8.28歳.1)では「援助に対する欲求」12.67±2.49/30点.「援助に対する抵抗」14.67±2.49/20点.援助に対する欲求の中央値である18点以下,援助に対する抵抗の中央値である12点以上であり,援助に対して回避的傾向であった.2)では「日常的作業」において自分なりのルール(食後に食器を直ぐ洗う・部屋の掃除・友人に会う)を定め規則的な生活をしており,元気でいるために出来る限り自律した生活をしたいとの発言が共通していた.「大切な作業」は体操・凧作り・町内会の役割,「作業の意味」は健康を保つ・人の役に立てる,「作業の機能」は疲れを感じにくい・やり甲斐があり今後も取り組みたいが挙がった.「作業の形態」は自宅で一人で行ったり,通所先・地域の集まりで他者に教えていた.いずれもこれまでの作業歴で培ったコミュニティとの交流を継続している特徴があった.
【考察】対象者3名とも被援助志向性は援助に対して回避的傾向であった.日常的作業において自律的な生活を維持するために自分なりのルールを設け規則的な生活を送れており,それらが元気でいるためといった健康志向性に影響し,援助に対する回避的傾向を強めていたと考える.また「大切な作業」をみると,これまで培った人間関係の交流を基盤として健康維持や人の役に立てているという実感が持てており,社会的孤立とは言えない状況であった.以上より,被援助志向性の低い男性独居高齢者への支援では,本人が意味や価値を置く作業についてマイペースに取り組める支援観の保持や対象者がこれまで培った人間関係をソーシャル・キャピタルとして活用する視点が重要ではないかと考える.今後は対象数を増やし,インタビュー内容を精査し研究を発展させたい.