第56回日本作業療法学会

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ポスター

基礎研究

[PP-5] ポスター:基礎研究 5

2022年9月17日(土) 15:30 〜 16:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PP-5-6] ポスター:基礎研究 5視線に対する教示の有無が健常成人の箸操作能力に与える影響について

大塚 開成1河口 万紀子1小手川 耕平2 (1九州中央リハビリテーション学院,2熊本保健科学大学保健科学部 リハビリテーション学科)

【はじめに】
現在,箸操作獲得に向けた訓練として,様々な方法が考案されている(丁子ら,2019).しかし,視線を考慮した介入が箸操作能力にどの程度影響を及ぼすかはわかっていない.本研究は,視線に対して異なる教示が箸操作能力にどの程度影響を与えるかを検証することが目的である.
【方法】
対象は,右利きで,右上肢・手指には箸操作の障害となる構造・機能の問題がない健常者27名(18歳~23歳)とした.全ての対象者を,教示なし群(以下対照群),箸先への教示をする群(以下箸先教示群),大豆への教示をする群(以下大豆教示群)に各9名ずつランダムに割り付けた.平川ら(2021)の方法を参考に,対象者は椅子座位にて右手で箸を持ち,大豆を机上の皿から,高さ30cmの台の上に設置した皿にできるだけ速く移動する課題を2分間実施した.課題は合計2回実施し,課題間は5分間の休息を行った.各条件の手順として,対照群は視線に対する教示をせず課題を2回実施し,箸先教示群・大豆教示群は,2回目の課題前のみに教示を与え実施した.教示内容は,箸先教示群では「箸先をしっかり見ながらできるだけ速く大豆を前方の皿へ移してください」,大豆教示群では「大豆の形をしっかり見ながらできるだけ速く大豆を前方の皿へ移してください」とした.また,各課題後は,大豆操作時にどこを見ていたかを聴取した.効果判定は,2分間に大豆を移動させた個数の前後比較を用いた.なお,全ての統計は解析ソフトRを用いて行い,有意水準は5%未満とした.倫理的配慮として,対象者には実験の説明を十分に行い,署名で同意を得た.また,当学院の倫理審査委員会の承認も得ている.
【結果】
対照群と箸先教示群及び大豆教示群の平均±標準誤差は,対照群(個):1回目27.55±1.14,2回目26±1.04.箸先教示群(個):1回目23.66±1.14,2回目27.55±2.01.大豆教示群(個):1回目24.33±1.35,2回目25.66±1.43.さらに,大豆の平均移動個数について教示の種類 (3) ×課題前後 (2) の2要因混合計画分散分析を実施した結果,教示の種類及び課題前後における主効果はみられなかった (種類, F (2, 24) = 0.49, p = .618, η² = .03; 課題前後, F (1, 24) = 2.15, p = .156, η² = .02).一方で,交互作用がみられ (F (2, 24) = 3.55, p = .046, η² = .06),下位検定の結果,箸先教示群の介入前後においてのみ単純効果が認められた (F (1, 8) = 7.62, p = .025, η² = .14).すなわち,箸先教示群のみで,2回目の大豆の移動個数が有意に増加したことが示された.また,大豆操作後の聴取内容について,対照群は視線の向け方が一定していなかったのに対し,箸先教示群では「1回目は豆,2回目は箸先を見ていた」,大豆教示群では「1回目は豆,2回目は豆の形を見ていた」との回答が多く聞かれた.
【考察】
道具使用場面においては,道具や対象物の物理的な特徴から使用方法を推論する技術的推論が重要であり,技術的推論は道具の機能部への注視が関与する.また,身近な道具を使う際,機能部を見れば何をすべきかが容易に分かるとされている(Tamakiら,2020).このことより,箸先教示群では,大豆に加え機能部である箸先に対してより注意が向いたことで,対象物に対する箸の効果的な使用方法の想起に繋がり,平均移動個数が増加したと考えられる.本研究によって,箸先に視線が向くように教示を与えることで,箸操作能力が向上することが示唆された.しかし,今回,視線計測を行っておらず注視点や注視時間等に関する分析はできていない.今後は,視線計測装置を用いた分析に加え,対象者数を増やし更なる効果検証を行いたい.