[PQ-1-4] ポスター:管理運営 1日常生活動作の予後予測
対数モデルと経験的判断の特徴比較
【はじめに】
回復期リハビリテーション病棟(以下;回復期リハ病棟)において,日常生活動作に関する適切な改善目標値を対象者に提示し,作業療法目標を共有した上で支援を行うためには,精度の高い予後予測が必要である.近年,日常生活に関する初期の得点を対数モデルに代入することによって将来の予測値を算出する手法が開発され(Koyamaら, 2005; Suzukiら, 2011, 2013),臨床場面に応用されている.しかし,作業療法士が対象者の日常生活動作を予測する際には,日常生活に関する初期の得点のみではなく,年齢,既往歴,合併症,重症度などの多様な因子を総合的に勘案して経験的に判断しているのが現状である.対数モデルを用いた方法は簡便ではあるものの,日常生活に影響を及ぼす多様な説明因子がモデルに投入されていないという限界を有している.
そこで本研究では,対数モデルによる予後予測と作業療法士の経験に基づく予後予測を比較することにより,両者の特徴や予測精度を明らかにすることを目的とした.なお,本研究は稲仁会倫理委員会及び東京家政大学倫理委員会の承認を得て実施した.
【方法】
三原病院回復期リハ病棟に入棟し,退院までフォローアップできた7名を対象とした.対数モデルを用いた予測では,入棟時と1ヵ月後のFIM運動項目得点をモデルに代入し,退院時のFIM運動項目
得点を予測した.作業療法士の経験に基づく予測では,入棟時の対象者の状況を総合的に勘案して退
院時のFIM運動項目得点を予測した.退院時の予測得点と実測得点との差分を計算し,Wilcoxon順位和検定を用いて対数モデルによる予測と作業療法士の経験に基づく予測を比較した.
【結果】
対象者の属性は平均年齢81.4±7.96歳,男性2名,女性5名であった.主病名は大腿骨骨折2名,腰骨折2名,骨盤骨折2名,脳梗塞1名で,回復期リハ病棟への平均入院期間は63.5±13.37日であった.また,回復期リハ病棟入棟時のFIM運動項目得点の平均は45.8±18.3点であり,退院時のFIM運動項目得点の平均は66.5±20.96点であった.対数モデルによる予測値と実測値の差分は5.14±7.88点,作業療法士の経験に基づく予測値と実測値の差分は-2.85±6.89点であった.Wilcoxon順位和検定では,両者の予測値に有意な差を認めなかった(p=0.141).ただし,対数モデルでは予測値がやや過小評価され,作業療法士の経験に基づく予測ではやや過大評価される傾向を認めた.
【考察】
対数モデルを用いた予測と作業療法士の経験に基づく予測に差を認めず,差分の平均値は6点以内に留まっていた.これは,Minimal Clinically Important Differenceと比較しても低値であり,両者ともに誤差として許容できる範囲であると考えられた.ただし,対数モデルでは予測値が実測値よりもやや低値となり,作業療法士の経験に基づく予測では予測値がやや高値となる傾向を認めた.今後は,作業療法士が経験に基づいて予後予測を行う際の着目点を詳細に解析して対数モデルに含めることで,より精度の高い予測が可能になると考えられる.