第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

教育

[PR-1] ポスター:教育 1

2022年9月16日(金) 12:00 〜 13:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PR-1-5] ポスター:教育 1当院で実施している新人教育プログラムの有用性検証

岩田 哲治1山根 岩雄1岡村 太郎2中村 優衣1野田 義人1 (1北総白井病院リハビリテーション科,2千葉県立保健医療大学リハビリテーション学科)

【はじめに】北総白井病院が実施している新人教育プログラムは,教育機関で学んだ知識をベースに,当院での臨床を担うに足る人材に育成する重要な教育過程である.本研究は,新人教育プログラムを通じて新人のQOL,疲労,セラピストとしての自己評価について測定し,教育を受ける側の視点で新人教育プログラムの有用性を検証することを目的としている.
なお,本研究は当院倫理委員会の承認を受けた上で,全ての参加者に同意を得ている.
【対象者】2020年度当院リハビリテーション科新入職員(男性8名,女性7名)15名で,平均年齢は22.5歳.職種はPT10名,OT5名で,学歴は大学9名,専門学校6名であった.COPMで聴取した目標は,リスク管理19%,適切な治療プログラムの立案と実施15%,他職種連携とコミュニケーション14%,評価能力の向上10%であった.
【新人教育プログラム】2020年4月から10月まで,期間中リハビリ治療に関する40分間1単位の講義を10回開催.新人1人に対し1人の教育担当者がつき,OJTを基本とした実技教育を実施し,当日の業務終了後に問題点,達成度についてフィードバックを行った.
【方法】教育プログラム開始時として4月に,個々の特性データ及び教育プログラムの効果や意見の聴取をアンケートで,期間中の達成目標をCOPMで,気分や感情の状態を気分プロフィール検査(以下POMS)で,疲労度を職業性ストレス簡易調査(以下疲労)で,セラピストとしての有能性の自己評価を作業に関する自己評価(以下OSA II)で,健康関連QOLをSF-36で測定した.教育期間を通じた各測定項目の変化を終了時の10月に再測定した.得られたデータはMS-Excelで集計し,匿名化してSPSS(Ver.22.0;IBM社)で統計解析した.
【結果】新人教育の目標の他職種連携とコミュニケーションは改善したが(アンケート,P= 0.045),全体的には満足する達成度は得られなかった.また,指導者への信頼感の低下(アンケート,P=0.015),トラブルの時に相談できる上司,先輩,同期の減少(アンケート,P=0.035)が認められた.SF-36の結果は,健康感が低下(P=0.003),精神的な健康(P=0.017),心の健康(P=0.001)の低下を示し,OSAIIでは,体を休める手段が無い(P=0.011)ことを示した.身体的な疲労感は低減(疲労,P=0.013)し,活気は上昇(P=0.006)したが,対人関係のストレスは増加し(疲労,P=0.038),習得した技術の仕事への活用度(疲労,P=0.008)と働きがいが低下した(疲労,P=0.003).
【考察】他職連携が築けたことは,新人教育の成果だが,ヨコの関係は築けても科内のタテの関係の構築が不十分1)であった.コロナ禍で行事や親睦の機会が少なかったことも一因だが,関係強化には教育担当者の配慮が重要となる.また,トラブルの時に相談できる上司,先輩の必要性が示されており,改善のためには教育担当者の教育とチームでのフォロー強化が必要となる.次に,身体的な疲労感,活気は上昇しているが,対人関係のストレスも上昇し,精神的な健康,心の健康の低下が認められる.休息を取りストレスを解消する生活ができていないと考える.最後に,教育期間を通じて働きがいやリハビリテーションの社会的意義のビジョン形成が不十分であった.改善のためには,明確なビジョン形成を促し,仕事をする意義が見出せるような教育担当者のサポートが重要となる.
本研究により,教育を受ける側の気持ちや考えを数値化することができた.今回得た知見は,教える側主体で継続されてきた当院の新人教育プログラムを見直す有用データとなるであろう.
1)タテ社会の人間関係,中根知恵,講談社現代新書,東京,1967.