第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

教育

[PR-1] ポスター:教育 1

2022年9月16日(金) 12:00 〜 13:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PR-1-6] ポスター:教育 1教育用アームロボットを活用した作業療法学生の運動療法技術学習の効果検証

小池 祐士1沖野 晃久2武田 和久2高波 泰裕3濱口 豊太1 (1埼玉県立大学 保健医療福祉学部 作業療法学科,2オキノ工業ロボティクス株式会社,3株式会社ペリテック)

【はじめに】我々が開発した脳卒中患者の筋緊張病態を再現できる教育用アームロボット(Samothrace:SAMO,特許第6307210号)は,運動療法技術を可視化でき,関節運動の最大角と最大速度で運動療法技術の達成度を判定できる.これまでの研究により,学生の運動療法技術の学習には,複数の筋緊張強度で練習させること,患者に与える関節運動の速さを抑え,運動時間を長く,関節を大きく運動させることが重要であることがわかった.また,対人感染症に留意しながら学習させるためには,ロボットを用いる手法が有効な手段の1つとなる.そこで本研究は,SAMOと人間を対照とした運動療法の練習効果の違いを検証することを目的とした.
【方法】対象は,本研究の目的・方法に同意の得られた4年次学生25名とし,アームロボットで運動療法技術練習を行うロボット練習群13名と学生同士による従来練習群12名とに無作為に配当した.実験手順は,練習前テスト,練習,練習後テストとして課題動作を実施させた.練習前後の課題動作は,SAMOの肘関節の病態に合わせて,肘関節最大伸展位から最大屈曲位にし,再び最大伸展位に戻す課題を1往復×9回実施させた.また,練習課題として,ロボット練習群は練習前後に使用するSAMOとは別のアームロボット(練習用ロボット)の肘関節に対して,従来練習群は学生の肘関節に対して,練習前後と同様の課題を10往復×3回実施させた.なお,練習時の指示として,(1) 愛護的にゆっくり時間をかけて動かすこと,(2) 全可動域に渡って関節を動かすことを両群に指示した.測定項目は,練習前後テスト中の肘関節角度とし,SAMOを用いて100Hzで経時的に記録した.分析方法は,肘関節角度データから,最大屈曲角到達割合(Flex %),最大伸展角到達割合(Ext %),屈曲時最大速度,伸展時最大速度を算出し,反復測定二元配置分散分析および多重比較を用いて,2群間および練習前後で比較した.また,練習後の学生の運動療法技術が作業療法士に近づいたかを検証するために,作業療法士8名のデータを計測し,そのデータを基準として,十分か不十分かを判別した.本研究は,埼玉県立大学倫理委員会によって承認され,JSPS科研費JP20K11286の助成を受けた.
【結果】肘関節屈曲および伸展時の最大速度は,ロボット練習群と従来練習群の共に練習前後で差はなかった.Flex %は,練習前のロボット練習群と従来練習群,従来練習群の練習前後に差はなかったが,ロボット練習群では練習前に比べ練習後で有意に拡大した.また,Ext %は,練習前のロボット練習群と従来練習群,従来練習群での練習前後に差はなかったが,練習後の従来練習群に比べロボット練習群で,ロボット練習群の練習前に比べ練習後で拡大した.続いて,練習後の学生の運動療法技術が作業療法士に近づいたかを検証した結果,従来練習群に比べロボット練習群の方が十分と判別された学生が多くなった.
【考察】本研究の結果より,練習前後の運動療法技術データおよび作業療法士データとの比較から,運動療法技術を学生同士で練習する従来の練習方法に比べ,教育用アームロボットを用いた練習方法の方が有効であることが明らかとなった.これより,脳卒中患者の筋緊張病態を再現できる教育用アームロボットを用いた学習結果は,対人感染に配慮しながら運動療法技術を学ぶ場合の新たな方法として有効であることを示唆した.しかし,臨床家の技術水準に達するには練習量が不足していることが推測される.学生の運動療法技術を臨床家水準まで向上させるには,練習回数と教示法について更なる検証を要する.