第56回日本作業療法学会

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スペシャルセッション

[A-15] スペシャルセッション

Fri. Sep 16, 2022 11:20 AM - 12:30 PM 第1会場 (メインホール)

座長:柴田 克之

[SS-1-2] 作業療法士の抱える職業上のストレス要因~作業療法士メンタルヘルス支援の構築にむけて~

藤田 さより1新宮 尚人飯田 妙子1新宮 尚人1 (1聖隷クリストファー大学リハビリテーション学部作業療法学科)

【はじめに】日本におけるうつ病等の精神疾患の増加に伴い,感情労働といわれる医療従事者の精神疾患の罹患率も向上している.作業療法士についても,不安を抱える患者やその家族と接する機会が多い対人援助職であり,感情労働の一つの職種といえる.しかしながら作業療法士自身のストレスについて調査したものは少なく,また作業療法士ためのメンタルヘルスの支援方法についての研究報告も見あたらない.そこで作業療法士のストレス状況について把握し,主たるストレス要因を明らかしたいと考えた.ストレス要因を明らかにすることにより,作業療法士のためのストレス軽減方法の検討・提案を行い,最終的にバーンアウトを防ぎ,ワークライフバランスを可能とする卒前教育としての「作業療法士のためのストレスマネジメントプログラム」を開発したいと考える.
【方法】「作業療法士として働く上でのストレスとその対処方法」をテーマとして半構成的インタビューを作業療法士に実施した.インタビューの内容はすべてICレコーダーに録音し,逐語録を作成した.分析はKHcoder3を用いて,計量テキスト分析を行い,頻出語の抽出,共起ネットワーク分析を,「全員」,「勤務経験1年未満」,「育児経験者」と分けてそれぞれ分析を行った.尚,本研究は筆頭筆者の所属する機関の倫理委員会の承認を得ている.
【結果】今回,16名の作業療法士に協力を得た.協力者の内訳は,男性4名,女性12名.経験年数は,1年目3名,2年目~9年目12名,10年以上1名で,平均4.8年であった.勤務先は回復期リハ病院が7名,急性期病院が2名,精神領域2名,高齢者施設3名,児童発達施設が2名であった.4名が育児経験者である.「全員」を分析した結果,共起ネットワーク図は6つのグループに分けられ,「先輩からの指導」,「知識不足」,「受け持ち患者が多いこと」,「周囲の目が気になる」の4つのストレス要因と,「話を聞いてもらえること」,「職場の支援」の2つがストレスを軽減方法として挙がった.「勤務経験1年未満」のみのグループの分析では,「仕事がわからない,できないこと」,「先輩からの指摘,先輩からの視線」,「受け持ち患者が多い」,「勤務時間が長い」5つのストレス要因が挙がり,「話を聞いてもらうこと」,「同僚の存在」の2つがストレス軽減の方法として挙がった.さらに育児経験者では「時間がない」,「勉強ができない」がストレスとして挙げられ,それらの対処方法として「(子育て経験のある)先輩のサポート」が挙げられた.
【考察】今回,作業療法士が抱えるストレスのその対処方法についてどのようなものであるかについてある程度把握することができた.作業療法士のストレスは,患者との関係性に関するストレスは少なく,「上司や指導者との関係性」,「自己の仕事に対する捉え方」,「時間的拘束」,「担当患者数が多いこと」が要因として挙げられた.またそれらの対処方法として「職場の支援」,「話を聞いてもらえること」,「先輩のサポート」,「同僚の存在」などが挙げられた.作業療法士のメンタルヘルスを向上させるためには,今後,職場内のサポート体制の強化が重要であることが考えられる.また1年未満の者は,先輩からも指導や視線がストレス要因と感じる原因として「自信のなさ」が背景にあると考えられ,自己能力の客観的評価と自己の成長を感じられる機会を持つことも有用であると考える.育児経験者は,限られた時間の中で業務,家事育児を熟さなくてはならず,育児経験者のサポートが重要であった.今後,育児経験者を中心とした意見交換の場や働き方の提案の場を設け,育児と仕事の両立できる支援体制を職場内に構築することが必要であると考える.