第57回日本作業療法学会

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基調講演

[KL-2] 基調講演2

Sat. Nov 11, 2023 10:40 AM - 12:10 PM 第1会場 (劇場棟)

座長:野田 和恵(神戸大学大学院 保健学研究科)

[KL-2-1] 痛みの仕組み

松原 貴子 (神戸学院大学大学院 総合リハビリテーション学研究科)

痛みは,年齢や性別,疾患の種類を問わず,頻繁に対応を求められる症状のひとつである。この数年で痛みを取り巻く環境は大きく変化した。痛みの定義が40年ぶりに改訂され(国際疼痛学会IASP,2020),30年ぶりに改訂された国際疾病分類改訂版(ICD-11)に「慢性疼痛」が収載され(WHO,2019),さらに,新たな機構分類として「痛覚変調性疼痛nociplastic pain」が提唱された(IASP,2021)。
痛みは,機構(仕組み)分類によって,①侵害受容性疼痛(末梢の組織損傷により侵害受容器が刺激されることで生じる痛み),②神経障害性疼痛(侵害受容器や痛覚伝導路を含む体性感覚神経系の病変によって生じる痛み),③痛覚変調性疼痛(侵害受容の変化によって生じる痛みで,“第3の痛み”として提唱され,侵害受容性疼痛あるいは神経障害性疼痛がないにもかかわらず生じる痛み)に分けられる。一方,慢性疼痛は,各疾患名が一次性または二次性に分類される。慢性二次性疼痛は,器質的な原因が痛み発症に明確に関与していることが説明できるもので,慢性術後痛,慢性神経障害性疼痛,慢性二次性筋骨格痛などがある。慢性一次性疼痛は,3か月以上持続し,心理社会的または機能障害に関連し,原因不明で説明困難な1か所以上に生じる痛みで,現象学的な診断名である。つまり,侵害受容性または神経障害性疼痛に同定されず,痛覚変調性疼痛の関与が大きく,慢性広範性疼痛,線維筋痛症,複合性局所疼痛症候群などがここに分類される。
“Decade of Pain Control and Research(2001-2010)”により痛み医療・研究は大きく発展し,痛みの病態概念の整理はずいぶん進歩した。その後,現在の世界的な課題は慢性疼痛に対する標準的診療法の確立である。慢性疼痛診療ガイドライン(厚生労働研究班他,2021)で病態に挙げられる「末梢・中枢感作」と「心理社会的問題」に対し,治療アルゴリズムのfirst-lineや診療ガイドラインの推奨に運動(活動),教育,認知行動療法(第3世代含む)のような行動変容アプローチが掲げられ,これらは作業療法士が得意とするところでもある。
現在,慢性疼痛は作業療法士国家試験出題基準の大項目に位置付けられるが,卒前・卒後教育ともにまったく不足する現状は深刻な問題である。発展を遂げた痛み医療の先鋒としてリハセラピスト,特に作業療法士が果たす役割は非常に大きい。痛みの仕組みについて最新かつ正確な知識を学び,作業療法における痛み解決の糸口を探るために,本講演が役立つことを期待する。