第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

脳血管疾患等

[OA-1] 一般演題:脳血管疾患等 1

2023年11月10日(金) 12:10 〜 13:10 第3会場 (会議場B1)

[OA-1-2] 脳卒中片麻痺上肢の主観的使用の理解度と使用頻度との関連について

瓜野 孝博1, 室谷 健太郎1, 和田 八千代1, 村田 菜々子1, 吉岡 豊城2 (1.医療法人はぁとふる はぁとふる病院, 2.医療法人はぁとふる 運動器ケアしまだ病院)

【はじめに】脳卒中片麻痺患者の麻痺側上肢の日常生活における使用頻度は,上肢麻痺の程度と麻痺側上肢の使用方法に対する理解度が影響すると報告されており(佐々木ら,2019),事前の調査では中等度麻痺の患者で理解度による使用頻度の差が大きかった. しかし,中等度麻痺の患者が理解度の差によって,日常生活のどの活動で使用できていないのかを示した報告は少ない.麻痺側上肢の支援を効果的にするには麻痺側上肢の使用を生活場面へ反映させていくことが重要であると報告されており(竹林,2013),理解度の差により日常生活で使用する活動項目を明らかにすることで,麻痺側上肢の使用を促す関わりを示すことができると考える.本研究の目的は中等度の片麻痺患者の理解度が,日常生活のどの活動に影響するのかを検討することである.
【対象】2022年1月から12月に脳梗塞または脳出血と診断され,当院回復期リハビリテーション病棟に入院し,中等度麻痺と判断した9名(認知機能面の影響や既往歴に上肢骨折など機能障害に影響がある方は除外した.)
【方法】
①脳卒中機能評価の膝・口テストと手指テストの合計点数をもとに4~7点を中等度麻痺とし,対象を抽出した.
②理解度の評価として,対象者へ「麻痺した手の生活での使用方法は分かりますか」と質問し,回答として「とても分かる」「概ね分かる」「あまり分からない」「全く分からない」の4件法で対象者が自己評価した.
③使用頻度はAid for Decision-making in Occupation Choice for Hand(以下,ADOC-H)を用いて「歯磨き」「手洗い」「顔のケア」「更衣の上半身」「更衣の下半身」「トイレ」「入浴」「食事」の各活動の動作項目を調査した.(男女差や利き手/非利き手の影響を受ける動作,環境として行わない動作は除外した.)評価方法は「よく使う」を2点「概ね使う」を1点「使わない」を0点の3段階で対象者が自己評価し,その合計点を使用頻度の評価とした.
④理解度の評価で「とても分かる」「概ね分かる」を理解あり群,「あまり分からない」「全く分からない」を理解なし群とし,マン・ホイットニーのU検定を用いて2群を比較した.有意水準は5%未満とした.尚,本研究を行うにあたり,当院の倫理委員会の承認を得ている.
【結果】理解度は9名中,理解あり群が3名で理解なし群は6名であった.ADOC-Hを用いた各活動の合計点数を理解あり群と理解無し群で比較し,歯磨き(P<0.01)や手洗い(P<0.05),顔のケア(P<0.01),更衣の下半身(P<0.005),トイレ(P<0.005)で有意差を示した.更衣の上半身や入浴,食事では有意差を認めなかった.
【考察】有意差を示した活動は健側上肢のみで完結しやすい活動であると思われ,理解なし群には学習性不使用が影響していると考える.一方で,理解あり群は回復過程の中で麻痺側上肢を使う必要性や意識的な使用の試みを通しての成功体験が使用方法の理解度を向上させ,日常生活での使用につながっていると考える.麻痺側上肢を使用するために行動戦略を含むアプローチを実施した場合,実生活の使用頻度の割合は高まることが報告されている(竹林,2012).今回,有意差を示した活動をもとに麻痺側上肢の回復段階に応じて「どの活動であれば使用できるか」や「どのような過程で使用していくことができるか」などをガイドとして示していくことができると考える.また,そのガイドをもとに作業療法士として,動作方法の工夫や環境調整を行い,麻痺側上肢の使用における成功体験を積み重ねることで,学習性不使用の脱却の一助になると考える.