第57回日本作業療法学会

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一般演題

脳血管疾患等

[OA-10] 一般演題:脳血管疾患等 10

Sat. Nov 11, 2023 1:40 PM - 2:40 PM 第2会場 (会議場A1)

[OA-10-4] 運転診断機能を有するドライブレコーダーを用いて安全な運転再開を支援した一例

田中 創1, 吉原 理美1,2, 伊藤 恵美3 (1.名古屋市総合リハビリテーションセンター作業療法科, 2.なごや高次脳機能障害支援センター, 3.関西医療大学保健医療学部作業療法学科)

【背景と目的】
脳損傷者の運転行動評価では,実車運転評価が有用とされるが(Fox et al, 2010),観察者の主観に影響されやすいという欠点がある(Devos et al, 2014).本研究では,運転診断機能を有するドライブレコーダーを用いて客観的に運転行動を評価し,対象者が自身の運転行動の問題点を理解するための介入を行い,安全な運転再開を支援したため報告する.本研究の実施にあたり,当センター倫理審査委員会の承認,および対象者から同意を得た.
【対象者】
50代男性,脳挫傷(両側前頭葉,実車運転評価実施時,受傷後1,186日経過),運動麻痺なし,独歩可能で日常生活自立,運転再開を希望され当センターの外来を受診された.
【評価】
1.実車前評価
知的機能(MMSE:30点),注意機能(TMT縦型用紙:part-A 24秒,part-B 56秒),記憶機能(リバーミード行動記憶検査:標準プロフィール 21点),遂行機能(BADS:総プロフィール 17点)の低下はみられなかった.運転シミュレーター検査(三菱プレシジョン社製DS30)では,単純反応,選択反応,ハンドル操作,注意配分・複数作業検査において問題はみられなかった.主治医は医学的に「運転を控えるべきとはいえない」と判断し,免許センターでの安全運転相談実施後,自動車学校の協力下で実車運転評価を実施し,安全な運転再開を支援するよう作業療法士に指示した.
2.実車運転評価
全長約5kmの路上コースで実車運転評価を行った.教習車両にはドライブレコーダー(データテック社製,SR-Video®)を設置し,専用解析ソフト(データテック社製,安全の達人Ⅱ®)で収集データを自動分析し,運転診断得点を算出した.運転診断得点は,5項目(ブレーキ,停止,ハンドル,右左折,スムーズ),各20点満点で構成されており,高得点は安全運転を意味する.同乗した作業療法士は,Driving Assessment Scale(DAS)を用いて観察評価を実施した.DASは,走行,進路変更,交差点・標識,駐車,運転態度,判断,支援に関する計25項目で構成されており,各項目は,0点~2点(常に~しばしば問題を生じる:0点,いくつかの場面で問題を生じる:1点,全ての場面で問題はない:2点)で判定した(合計50点).
3.実車運転評価後の作業療法士の対応
同乗した作業療法士は,評価結果に関する資料を封入し,実車運転評価の感想についての自由記載形式のアンケート用紙,返信用封筒と合せて対象者宛に郵送した.
【結果】
運転診断得点は合計72点であり,同一手順で実施した教習指導員26名の平均値(Tanaka et al, 2021)と比較すると,ブレーキ得点(13点)が教習指導員の平均19.0点(±1.8点)より2標準偏差以上低い点数であった.DASは合計41点であり,見通しの悪い一時停止交差点や進路変更で減点がみられた.アンケート結果は,「何を注意すべきか具体的に挙げてもらい,不安が解消された」「家族に結果を説明する際に資料が役立った」と記載されていた.
【考察】
運転行動を客観的かつ包括的に評価し,情報提供に活用した点が本研究の新規性である.アンケート結果をみる限り,評価結果は対象者が自身の運転行動を振り返る際の有益な情報となった可能性がある.また,家族に自身の運転能力を理解してもらう際の情報源として役立った可能性がある. 本研究は,科学研究費助成事業(課題番号:16K12930)の助成を受けて実施した.