[OA-10-5] 自動車運転再開評価として用いる神経心理学的検査の使用手による成績の違い
【序論】当院では脳障害者の自動車運転再開評価として,Trail Making Test日本版(TMT-J),標準注意機能検査の下位検査である Visual Cancellation Task(VCT)や,第4版ウェクスラー知能検査(WAIS-Ⅳ)の下位検査である符号課題などを使用している.脳障害者の中には利き手の麻痺のため検査を非利き手で行う場合もあり,注意機能障害によらずに不慣れさのため成績が低くなる可能性がある.先行研究ではTMT-J,VCT,WAIS-Ⅳ符号課題について利き手と非利き手の差を比較した研究は見られないため,非利き手で成績が低下する検査を明らかにするために,右利き健常者を対象に検討を行った.
【方法】対象は,エジンバラ利き手テストで右利きと判定された健常者38名(男性24名,女性14名,平均年齢33.6±8.2歳)として,無作為に2群(RL群19名,LR群19名)に分けた.RL群は右手で検査を実施し,4週間後に左手で実施した.LR群は左手から右手の順で実施した.評価項目はTMT-J PartA,PartB(TMT-A・B)の所要時間,VCT4課題の所要時間・正答率,WAIS-Ⅳ符号課題の粗点として,右手の結果および左手の結果を2群間で比較し順序による学習効果を確認した後に,全対象で右手と左手の結果を比較した.有意水準はP<0.05とした.
【結果】2群間の比較では,VCT図形B所要時間が左手でRL群46.8±7.7秒,LR群53.3±10.4秒とLR群が有意に遅かった.全対象の比較では,右手:左手の順でTMT-Bが38.0±10.0秒:42.5±11.2秒,VCT図形Aが40.1±6.7秒:47.0±9.0秒,VCT図形Bが45.6±7.0秒:50.0±9.6秒,VCT数字が77.1±9.6秒:91.1±15.4秒,VCT仮名が91.1±11.8秒:104.6±18.3秒と左手の所要時間が有意に遅く,WAIS-Ⅳ符号課題の粗点が94.7±10.4点:79.4±10.2点と左手が有意に低かった.
【考察】VCT図形Bの所要時間のみ左手の成績に順序による学習効果があったのは,VCT図形Bのターゲットは見慣れない図形であるため,右手を先行した場合の左手の慣れが,他の図形より大きく影響した可能性があると考えられた.左手使用のVCTの所要時間,WAIS-Ⅳ符号課題の粗点の成績が有意に低下したのは,宮前ら(1982)は,書字の際の手指筋は,利き手は相同性収縮を示すのに対し,非利き手では持続性収縮を示す筋が多いと報告している.また,市橋ら(1992)は,非利き手における書字動作は利き手に比べ多くの筋活動を必要とすると報告しており,左手の筋収縮や筋活動量の増加が,疲労と巧緻性の低下を引き起こし,成績に影響した可能性があると考えられた.TMT-Aに比べTMT-Bでは所要時間が有意に遅かったのは,Klamingら(2017)は,非利き手でTMT-Bを実施すると,非利き手の使用と認知タスクの両方が,同じ認知リソースを利用するためTMT-Aに比べ完了時間が長くなると報告している.また,山下ら(2010)のReyの複雑図形の検討で,非利き手の使用は模写では影響しなかったが,非利き手で模写を行った後の3分後再生では両手ともに成績が低下し,非利き手の運動制御による認知的負荷が,図の情報処理と記憶の認知的負荷と干渉することで,成績に影響を及ぼした可能性を示している.今回は,非利き手の運動制御のための認知的負荷と,TMT-Bで要求されるTMT-Aより高い認知的負荷が干渉することで,TMT-Bの所要時間が長くなった可能性があると考えられた.
【まとめ】2群間の比較では,VCT図形BでRL群左手の所要時間が有意に速く,RL群左手には順序による学習効果がみられた.左手と右手の比較では,TMT-B,VCT全課題で左手の所要時間が有意に遅く,WAIS‐Ⅳ符号課題で左手の成績が有意に低かった.これらの検査を非利き手で実施する場合は,結果の解釈に注意が必要である.
【方法】対象は,エジンバラ利き手テストで右利きと判定された健常者38名(男性24名,女性14名,平均年齢33.6±8.2歳)として,無作為に2群(RL群19名,LR群19名)に分けた.RL群は右手で検査を実施し,4週間後に左手で実施した.LR群は左手から右手の順で実施した.評価項目はTMT-J PartA,PartB(TMT-A・B)の所要時間,VCT4課題の所要時間・正答率,WAIS-Ⅳ符号課題の粗点として,右手の結果および左手の結果を2群間で比較し順序による学習効果を確認した後に,全対象で右手と左手の結果を比較した.有意水準はP<0.05とした.
【結果】2群間の比較では,VCT図形B所要時間が左手でRL群46.8±7.7秒,LR群53.3±10.4秒とLR群が有意に遅かった.全対象の比較では,右手:左手の順でTMT-Bが38.0±10.0秒:42.5±11.2秒,VCT図形Aが40.1±6.7秒:47.0±9.0秒,VCT図形Bが45.6±7.0秒:50.0±9.6秒,VCT数字が77.1±9.6秒:91.1±15.4秒,VCT仮名が91.1±11.8秒:104.6±18.3秒と左手の所要時間が有意に遅く,WAIS-Ⅳ符号課題の粗点が94.7±10.4点:79.4±10.2点と左手が有意に低かった.
【考察】VCT図形Bの所要時間のみ左手の成績に順序による学習効果があったのは,VCT図形Bのターゲットは見慣れない図形であるため,右手を先行した場合の左手の慣れが,他の図形より大きく影響した可能性があると考えられた.左手使用のVCTの所要時間,WAIS-Ⅳ符号課題の粗点の成績が有意に低下したのは,宮前ら(1982)は,書字の際の手指筋は,利き手は相同性収縮を示すのに対し,非利き手では持続性収縮を示す筋が多いと報告している.また,市橋ら(1992)は,非利き手における書字動作は利き手に比べ多くの筋活動を必要とすると報告しており,左手の筋収縮や筋活動量の増加が,疲労と巧緻性の低下を引き起こし,成績に影響した可能性があると考えられた.TMT-Aに比べTMT-Bでは所要時間が有意に遅かったのは,Klamingら(2017)は,非利き手でTMT-Bを実施すると,非利き手の使用と認知タスクの両方が,同じ認知リソースを利用するためTMT-Aに比べ完了時間が長くなると報告している.また,山下ら(2010)のReyの複雑図形の検討で,非利き手の使用は模写では影響しなかったが,非利き手で模写を行った後の3分後再生では両手ともに成績が低下し,非利き手の運動制御による認知的負荷が,図の情報処理と記憶の認知的負荷と干渉することで,成績に影響を及ぼした可能性を示している.今回は,非利き手の運動制御のための認知的負荷と,TMT-Bで要求されるTMT-Aより高い認知的負荷が干渉することで,TMT-Bの所要時間が長くなった可能性があると考えられた.
【まとめ】2群間の比較では,VCT図形BでRL群左手の所要時間が有意に速く,RL群左手には順序による学習効果がみられた.左手と右手の比較では,TMT-B,VCT全課題で左手の所要時間が有意に遅く,WAIS‐Ⅳ符号課題で左手の成績が有意に低かった.これらの検査を非利き手で実施する場合は,結果の解釈に注意が必要である.