第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

脳血管疾患等

[OA-11] 一般演題:脳血管疾患等 11

2023年11月11日(土) 13:40 〜 14:40 第3会場 (会議場B1)

[OA-11-1] 慢性期脳卒中患者に対するrTMSと作業療法の併用療法の複数回実施における脳活動の変化

前田 正憲1, 片井 聡2 (1.鹿教湯三才山リハビリテーションセンター鹿教湯病院作業療法科, 2.鹿教湯三才山リハビリテーションセンター鹿教湯病院脳神経内科)

【はじめに】脳卒中上肢麻痺への介入法の1つに大脳半球運動野への反復性経頭蓋磁気刺激(rTMS)と作業療法(OT)の併用療法がある.2週間の併用療法前後での変化を磁気共鳴機能画像法(fMRI)を用いて調査した報告(Katai,2023)では,非損傷側と比較して損傷側の運動野が活動し易くなり,その変化が物品操作能力の指標であるWolf Motor Function Testとも相関があったとしている.また併用療法を複数回行うことによる上肢麻痺の効果も報告(玉代,2014)されている.しかし併用療法を複数回行った際の脳活動に関する報告はなく,脳活動への影響は不明確である.
【目的】慢性期脳卒中患者に対する複数回のrTMSとOTの2週間の併用療法プログラム前後での脳活動や上肢麻痺,生活の中での麻痺手の使用の変化,そしてそれらの関係性を探索的に調査すること.
【方法】対象者は,脳卒中発症後1年以上経過,少なくとも入浴を除くADLが自立,手指の伸展が可能で2週間のrTMSとOTの併用療法プログラムを2回受けた14名. 併用療法は,rTMSは平日のみで非損傷側大脳半球一次運動野手指領域に対し刺激頻度は1Hz,20分間を医師が午前・午後の2回実施.OTはrTMSの後に1時間ずつの計2時間,休日は1時間実施した.脳活動は麻痺側手指屈伸の際の活動をfMRIにて測定した.関心領域は運動関連領域であるBroadman4野と6野に設定し,p<0.001 uncorrected にて有意となったボクセル数を求めた.次にLaterality Index(LI)=(損傷側脳活動-非損傷側脳活動)/(損傷側脳活動+非損傷側脳活動)を算出した.上肢麻痺の評価はFugl-Meyer Assessmentの上肢項目(FMA),麻痺側手の日常生活での使用の評価はMotor Activity Logの使用頻度(MAL-A)を用いた.いずれの評価も入退院時に実施した.統計解析は1回目,2回目それぞれの入退院時の比較は対応のあるt検定,LIとFMA・MAL-A(入退院時及び変化量)との関係性の解析はピアソンの相関分析を用いた.いずれもp<0.05を有意とした.なお本研究は,当院倫理委員会の承認を得ている.
【結果】対象者の1回目入院から2回目入院までの期間の平均は244.08±67.61日であった.LIは,1回目入院時0.62±0.37,退院時0.77±0.29,2回目入院時0.58±0.63,退院時0.55±0.28であった.入院時LIが1であった対象者(1回目2人,2回目4人)を除くと,1回目のみ入退院時の比較でLIが有意に増加した.FMAは1回目入院時43.71±14.42,退院時47.35±13.89,2回目入院時44.71±14.77,退院時47.52±14.64,同じくMAL-Aが1.12±0.91,1.67±1.26,1.62±1.33,1.76±1.33であった.FMAは1,2回目ともに入退院時の比較で有意に増加,一方MAL-Aは1回目のみ有意に増加した. LIとFMA・MAL-Aに関して有意に相関したのは,1回目入院時のLIと1回目の入退院時のMAL-Aでそれぞれr=0.59,r=0.60,2回目退院時のLIとFMA及びMAL-Aでそれぞれr=0.64,r=0.59であった.LIとFMA・MAL-Aの変化量に関しては,1・2回目ともに有意な相関はみられなかった.
【考察】入院時のLIが1であった対象者を除くと1回目は入院時と比較して有意に退院時のLIが増加した.これはrTMSによる運動時の非損傷側運動野の過活動抑制とOTにより損傷側の運動野が賦活し易くなった結果と考える.しかし2回目になると入院時のLIが1の対象者を除いてもLIの変化量は有意ではなく,必ずしも併用療法は非損傷側運動野の活動の抑制には寄与しない可能性がある.また2回目退院時のLIとFMA そして1回目入院時と2回目退院時のLIとMAL-Aに正の有意な相関がみられたのは,手指機能は日常生活での麻痺手の使用に重要であり,麻痺の程度にも関与している.麻痺手の機能に関してはLIとの関係が示唆されており,そのためFMAやMAL-Aにも有意な相関がみられた可能性がある.