第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

脳血管疾患等

[OA-11] 一般演題:脳血管疾患等 11

2023年11月11日(土) 13:40 〜 14:40 第3会場 (会議場B1)

[OA-11-2] 失語症を伴う重度片麻痺に対し,促通反復療法とTransfer Packageを用いた介入により麻痺手使用の改善を得た一例

橋口 文子, 大迫 洋介, 浦底 まゆみ, 大濵 由美, 石丸 浩一 (いちき串木野市医師会立脳神経外科センター)

【はじめに】脳卒中の上肢機能障害に対する,複合的な介入により改善が示された報告は多数認めるが,失語症かつ感覚障害を有する重度片麻痺患者に対しての報告は少ない.
今回,視床出血による重度片麻痺と感覚障害により脳卒中後肩痛(HSP)を呈した症例に対し,促通反復療法(RFE)と課題指向型訓練(TOT)を段階的に行い疼痛の軽減が図れた.しかし,本症例は失語も有しており,疼痛軽減後の麻痺手使用に関して具体的なニーズを聴取することが困難であったため, ADOC-Hを用いた目標設定を行い,簡略化したTransfer Package(TP)にて行動変容を促した.これらの複合的介入を実施した結果,上肢の運動機能と物品操作能力,日常生活での使用頻度に改善が得られたため報告する.
【症例紹介】70歳代右利き女性.左視床出血にてA病院にて保存的加療が行われた.第16病日に当院回復期病棟に転院.第92病日,脳幹梗塞を発症し当院急性期病棟にて加療.第99病日,再度回復期病棟に転棟となる.入棟時上肢機能は FMAの上肢項目は12点,表在深部感覚ともに脱失~重度鈍麻,Tip palm distance(TPD)4㎝, ARATは0点だった. MALはAOUとQOM共に0点と不使用状態だった.失語症による喚語困難で具体的な目標の聴取は難しいが,聴理解は良好だった.なお,本報告については書面にて十分に説明を行い,同意を得た.
【方法と経過】第32病日よりHSPが出現し,第65病日頃より, NRSで4と著明な疼痛を認めた.振動刺激による痙縮筋の痙性抑制,RFEにて上肢近位部の強化と可動域改善を図った.なお,病棟での交代浴や主治医と協議し適宜滑液包内注射,肩甲上神経ブロック注射も実施した.訓練時以外の疼痛への対応として,アームスリングの着用とポジショニングを徹底した.第132病日頃より,肩関節痛はNRSで1~2まで軽減し,上肢機能の向上と麻痺手使用の意欲の向上がみられたため,日常生活で麻痺手を使用する場面をADOC-Hを用いて決定した.その結果,「右手で補助しながら,左袖の袖をまくれる」「下衣前方のズボンの上げ下ろしができる」の2つで合意し,必要なRFEのパターンとTOTを実施した.
第150病日頃より,簡略化したTPにて,積極的な麻痺手使用を促した.具体的には,失語症に配慮した簡潔な紙面を作成し,麻痺手の使用場面を毎日,症例と選定,共有し,生活動作において麻痺側上肢の使用を積極的に行うように指導しmonitoringを行った.徐々に生活の中でも,立位時に手すりを把持する,洗体動作時に非麻痺手で麻痺手をこするなど使用頻度の向上を認めた.
【結果】第203病日目評価として,FMA49点, TPD示指間1㎝,中指・環指間0㎝,小指間0.5㎝,ARAT21点, MALのAOU1.31点,QOM1.07点,肩関節痛はNRS1と改善みられた.病棟内にて自主的に水洗トイレレバーを麻痺手で回すといった麻痺手の参加も増加を認めた.合意目標に関しては,「下衣前方のズボンの上げ下ろしができる」がMAL-QOMの評価にて,0点→4点,「右手で補助しながら,左袖の袖をまくれる」QOM0点→2点であった.
【考察】今回,複合的な介入を症例の状態に応じ段階的に実施したことにより,FMA,ARAT, MAL-AOUは臨床的意義のある最小変化量を上回る改善を認めた.藤本ら(2022)の報告を参考に,RFEにて必要な随意運動を実現・獲得し,獲得した運動をTOTにて実践的に利用したことや,また,失語症を有する症例でも,本人の能力に合わせ簡略化したTPを行ったことがこれらの改善に繋がったものと考える.
 他方,麻痺手の使用の質においては改善が得られにくい結果となった.今後は感覚障害を考慮した問題解決技法にて上肢使用の質の向上を図る必要がある.