第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

脳血管疾患等

[OA-11] 一般演題:脳血管疾患等 11

2023年11月11日(土) 13:40 〜 14:40 第3会場 (会議場B1)

[OA-11-5] 抑うつ状態が懸念された脳卒中患者に対する修正CI療法の実践

小森 江梨1, 横山 広樹2, 叶 洸民1, 小寺 翔馬1 (1.蘇生会総合病院リハビリテーション科, 2.関西医科大学くずは病院リハビリテーション科)

【はじめに】
脳卒中後の麻痺側上肢の運動機能改善や麻痺手の使用を拡大する方法としてCI療法があり,本邦のガイドラインにおいても強く推奨されている(脳卒中治療ガイドライン2021).また,Myintらは,回復期脳卒中患者に対し修正CI療法を実施し麻痺手の機能と使用行動に関して有意な改善を認め,12 週間後の追跡調査時も継続したと報告している(Jennifer Ma Wai Myint 2008).一方,CI療法の構成要素に行動変容技法も含まれるため,対象者によっては心理的負担が生じる可能性がある.回復期リハビリテーション病棟入院中に診断された脳卒中後うつ病は25%であったとの報告もあり(山川百合子2004),身体機能の回復を遅らせる要因になり得るため注意が必要である(伊藤栄一2007).今回,抑うつ状態が懸念された脳卒中患者に対し心的配慮をふまえた修正CI療法を行い,上肢機能の改善や麻痺手の使用頻度向上を認めたため報告する.なお,本報告は本人に発表の意図を十分説明し書面にて同意を得た.
【症例紹介】
70歳代女性で右利き,発症前ADLは自立し,既往にうつ病はなかった.右放線冠の脳梗塞に対し2病日からリハビリテーション(リハ)を開始し,BRSは上肢Ⅳ手指Ⅲ,握力は左0㎏,感覚障害は認めず,MMSEは27点と全般的認知機能は保たれていた.3病日にBRS上肢Ⅱ手指Ⅱと運動麻痺が増悪したが,その後は増悪なく経過した.36病日でのFMAの上肢運動項目は31点,MALのAOUは0.28,QOMは0.28,STEFは左45点,FIMは72点でADLに介助を要し,病棟生活で麻痺手はほぼ使用していなかった.運動麻痺の増悪に対する恐怖心や不安が強く,訓練時では運動麻痺が増悪していないか繰り返し質問していた.入院後より不眠であり,運動麻痺の改善に対する実感も得られず,悲観的発言は多く自責傾向も認めた.悲観的発言が増加したが精神科受診や投薬治療を拒否したため,97病日から心理士によるカウンセリングを実施した.
【方法】
課題指向型練習とTransfer packageを含む1時間の作業療法訓練に加え,1時間程度の自主練習を週6~7日,36病日から112病日まで実施した.課題指向型練習では,麻痺手の機能障害と本人の希望に応じて課題内容を変化させ,成功体験が得られやすいよう課題の難易度調整やShapingとTask practiceの配分調整を行った.Transfer packageでは,ADOC-Hを使用し病棟生活での麻痺手の使用場面の決定や活動・参加目標の立案を行い,日記は継続しやすいよう簡易的な書式を用いた.麻痺手の運動機能や動作遂行度に対する自己評価が低かったため,適切な理解が深められるよう麻痺手の運動状態や麻痺手を使用した動作場面を動画で撮影し,セラピストとともに鑑賞し指導した.
【結果】
最終評価時(112病日),FMAの上肢運動項目は55点,MALのAOUは4.3点,QOMは3.3点,STEFは左76点,握力は左9.5㎏,ADLは全て自立しFIMは118点と改善した.病棟生活での麻痺手の使用頻度は向上し,自発的に自主練習内容や麻痺手の使用場面を提案し実施する様子もみられた.不眠や自責傾向は著変なく,運動麻痺に対する不全感も残存した.
【考察】
脳卒中後うつ病患者が陥りやすい状態として,自身の悪いところへ目が向き,痺れや痛みを強く感じ,身体愁訴が増大し,リハが停滞することが報告されている(矢崎章2007).本症例も運動麻痺の増悪を経験し不安を抱えておりCI療法の継続に難渋する可能性があったが,成功体験が得られやすい難易度調整や動画撮影といったモニタリング方法の工夫,生活場面における段階的な麻痺手の使用方法の呈示を行った結果,明らかな抑うつの増悪なく上肢機能の改善や麻痺手の使用頻度の向上が得られたと考えた.