第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

脳血管疾患等

[OA-12] 一般演題:脳血管疾患等 12

2023年11月12日(日) 08:30 〜 09:30 第2会場 (会議場A1)

[OA-12-4] 脳卒中上肢痙縮に対する亜急性期でのボツリヌス療法の経験

管野 秀紀1, 道又 顕1,2 (1.一般財団法人 広南会 広南病院リハビリテーション部, 2.東北大学大学院医学系研究科肢体不自由学分野)

【はじめに】脳卒中後の上下肢痙縮軽減を目的としたボツリヌス療法(以下,BTX)があり,脳卒中治療ガイドライン2021において,生活期に行なわれることが多いが亜急性期に行なうことも妥当であるとされ推奨度Bとなっている.今回,上肢痙縮により随意運動,ADLが阻害されている症例に対して亜急性期にBTXを実施し,ADLにおいて更衣,整容動作の改善を認め介助量が軽減したので以下に報告する.尚,本報告は本人及び家族に同意を得ている.
【症例紹介と介入経過】症例は左片麻痺を呈した10歳代前半の男性であり,6年前に脳室内出血を発症し眼球運動障害が後遺したが,ADL・IADL共に自立し復学していた.今回,右視床に脳出血を認め当院に入院となった.OTは3病日より介入し,Japan Coma Scaleは1,Brunnstrome Recovery Stage は上肢Ⅱ,手指Ⅲ,感覚は表在・深部共に重度鈍麻であった.また,左半側空間無視,注意障害,脱抑制を呈しており,基本動作・ADL全般に介助を要していた. OTでは機能訓練とADL訓練を並行して実施していたが,痙縮の増強により上肢屈筋の筋緊張の亢進が著明となり伸展動作を阻害していた.また本人より,「服を着るのに時間がかかる,手が洗いにくくて臭いけど一人では大変だからできない」といった,痙縮がADLを阻害している発言が聞かれた.そこでリハビリテーション専門医へ相談し,痙縮の軽減,ADL介助量の軽減を目的にBTX施行となった.
【BTX施行前評価40病日】Fugl-Meyer Assessment上肢項目(以下,FMA-U)は19点,modified Ashworth Scale(以下,MAS)は肘関節屈筋群1+,手指屈筋群1+であり,肘関節においては伸展時に屈筋と伸筋の同時収縮が著明であった.ROM制限は認めなかった.更衣動作において上衣着衣では,麻痺側の袖を通す際に肘関節伸展位での保持が困難であり,時間は120秒を要していた.
【BTX施行44病日】上腕筋50単位,浅指屈筋50単位,計100単位投与した.OTでは機能訓練と更衣動作,手洗い動作を目標動作としたADL訓練を継続した.
【BTX施行後評価74病日】FMA-Uは19点,MASは肘関節屈筋群1+,手指屈筋群1+でありスコア上の変化は認められないが,肘関節伸展時の同時収縮は軽減された.上衣着衣では,麻痺側の袖を通す際に肘関節伸展位の保持が可能となり,時間は90秒となりBTX施行前と比較し30秒短縮した.さらに,「肘・指が伸びやすくなって手が洗いやすくなった」と発言が聞かれた.ADLにおいては,麻痺側上肢の管理や補助的な使用が確立され,病棟内は車椅子にて概ね自立となった.
【考察】痙縮に対するBTXの目的として機能回復の促進,ADL介助量の軽減,疼痛の軽減等が挙げられる.Rosalesは亜急性期でのBTXにおいて,痙縮の軽減,疼痛の軽減における有用性は示されているが,生活動作の改善における有用性は不十分であると報告している.症例においてはBTX実施後も上肢機能,痙縮の程度に変化は認められなかったが,ADLでは目標とした動作において動作効率が改善されたことで麻痺側上肢の管理や補助的な使用が可能となり,動作が定着しADL介助量が軽減した.よって,亜急性期でのBTXが生活動作の改善に影響を与えた可能性がある.しかし,一症例であり対象が限定的であるため,今後は症例数を増やすと共に対照群を設定した検討が必要であり,早期にBTXを実施する場合の適応症例や再投与の時期,評価指標や訓練内容など検討していく必要があると考える.