第57回日本作業療法学会

Presentation information

一般演題

脳血管疾患等

[OA-13] 一般演題:脳血管疾患等 13

Sun. Nov 12, 2023 8:30 AM - 9:30 AM 第3会場 (会議場B1)

[OA-13-4] 上肢機能訓練を実施し実用手を獲得した急性横断性脊髄炎の1例

吉永 貴博1, 坂本 佳1, 今田 吉彦1, 宮本 詩子2, 木原 薫2 (1.熊本機能病院総合リハビリテーション部, 2.熊本機能病院神経内科)

【目的】
今回,コロナワクチン接種後に横断性脊髄炎を発症し,左肘関節から手指に重度の運動機能障害と感覚障害を呈した症例を担当した.本症例に対して,神経伝導検査(Nerve conduction study : NCS)の結果に基づき,上肢や手指の機能障害への介入を1年間実施した.介入の結果,実用手まで回復し趣味活動の再開に至ったため報告する.なお, 本報告は,本人より同意を得ている.
【方法】
症例情報:症例は,20代男性右利き.急性横断性脊髄炎.頸椎MRIではT2強調画像にてC6~C8の髄内に高信号あり.第41病日にリハ目的で当院転院.デマンドは「左手を動かせるようになりたい」「また友人と釣りをしたい」.第44病日に,上肢のNCSを実施. 複合筋活動電位振幅(以下,CMAP)は正中神経と尺骨神経とも著明に低下していたが,感覚神経活動電位振幅(以下,SNAP)は正常であった.伝導速度は正中神経,尺骨神経ともほぼ正常であった.筋力は肘屈筋群3,肘伸筋群3,手背屈筋群2,指屈筋群0,指外転0.ARATは6点.MALはAOU0点,QOM0点.STEFは実施困難.感覚障害は触覚と痛覚ともにC6レベル以下が中等度鈍麻.FIMは120点で右手のみ使用. 介入方法:画像所見とNCSにて,正中神経と尺骨神経ともCMAPが低下,SNAPが正常であったことから,左上肢の筋力低下は錐体路障害の影響ではなく頚部神経根から前角細胞障害が示唆された.本人のデマンドである上肢および手指機能の改善を図るために,電気治療を中心に1日60~100分介入した.また,リハ時間以外も電気治療機器を60~120分間装着した.電気治療機器には症例の状態に応じて,低周波治療器イトーESPARGEと随意運動介助型電気刺激装置IVESを使用した.
【経過】
第45病日よりIVESのノーマルモードで前腕や手関節,手指への電気治療を開始した.第74病日にNCSを実施し,数値や波形に変化は見られなかった.第104病日には電気治療機器をESPARGEのTENSモードに変更し,パルス幅を0.1 msに設定した.また,良肢位にて手指の運動を実施するため,手関節背屈30°にてMP関節を固定するスプリントを作成した.第136病日のNCSにて,CMAPの増大が確認された(1.0 mV→3.5 mV,1.8 mV→2.7 mV).筋力も手関節背屈が3,手指屈曲が2に改善した.ARATは23点となり,物品把持が可能となった.また,MALはAOU1.2点QOM1.1点となり,日常生活上において左手の参加がみられるようになった.第163病日には指腹つまみが可能となり自宅に退院した.第164病日より,当院外来リハを開始した.従来の電気治療に趣味活動を想定して紐結びを追加した.第247病日のNCSではCMAPがさらに増大した(3.5 mV→6.4 mV,2.7 mV→4.5 mV).手指の筋力が2~3となり,両手で釣り糸を結ぶ動作が可能となった.
【結果】
正中神経と尺骨神経のCMAPはともに増大を認めた.筋力は肘屈筋群5,肘伸筋群,手背屈筋群4,指屈筋群2~3,指外転2に改善した.ARATは47点.MALはAOU3.6点,QOM3.6点.STEFは85点.第346病日に実用手を獲得し趣味の釣りが再開できた.
【考察】
松永らは「電気刺激により,四肢麻痺上肢の手指把持動作再建や,対麻痺起立歩行再建などは可能である.」と述べている.また,渡部らは「末梢への電気刺激の作用として,筋萎縮を予防し筋力の維持や強化の効果が得られる.」と述べている.本症例も,NCSにて病変の主座を評価し,その結果に基づき早期より電気治療機器を導入した.前角細胞の興奮性が改善するまで,長期的に筋萎縮を予防できたことが,上肢と手指機能の改善において有効であったと考える.