[OA-14-1] 脳卒中入院患者における自己能力の過信と転倒との関係
【はじめに】脳卒中患者の転倒には,運動麻痺や高次脳機能障害の関与が報告されている.一方,心身機能に関わらず,患者の自己能力の過信が原因と疑われる事例を経験する.実際に,地域在住高齢者(Sakurai, BMC Geriatr, 2016)や脳卒中患者(Morone, Gait posture, 2014)のうち,自己能力評価を過信する者は転倒しやすいと報告されている.そこで,本研究では,自己能力の過信が,回復期リハ病棟の脳卒中入院患者の転倒に関与するかどうか前方視的研究にて検証した.
【方法】対象は,2021年10月から2022年12月までに当院回復期リハ病棟に入院した脳卒中患者150名のうち,除外者を除いた101名.性別は男性59名,女性42名で,平均年齢は70.3±13.5歳であった.調査期間中の転倒者は16名だった.除外基準は,意識障害,失語症,認知症の理由によりコミュニケーションが困難な者とした.なお,本研究は,横浜新緑総合病院倫理委員会の承認を受け,個人情報を保護し,対象者からインフォームド・コンセントを得ている.
患者の自己能力評価は,我々が独自に作成したShinmidori self-efficacy scale(以下SSES)を使用した.SSESでは病棟での15項目の動作(例:床の物を立って拾う,トイレでの下衣操作)について,患者が「転倒せずに遂行できる自信度」を1から7点で自己評価した.満点は105点であり,高得点ほど高い自信度を表す.評価は入棟1週間後に行い,その後は毎月行った.また,患者との認識の差を示す指標として,担当リハ・看護師(Ns)も同時期にSSESにて患者の動作能力を推測で評価した.SIAS,バランス能力(BBS),HDS-Rなどの心身機能も同時期に評価した.
分析1)患者の過信やその他要因と転倒との関連を検証するため,患者を転倒・非転倒群に分類し,SSES得点や心身機能などを比較した.分析2)患者とリハ,Ns間の認識の差と転倒との関連を検証するため,SSESの患者得点からリハとNsの得点をそれぞれ減じたSSES差分値を算出し,両群で比較した.なお,このSSES差分値が正の場合,「患者の過信」と定義した.統計分析は,Studentのt検定,Mann-Whitneyの U検定,カイ二乗検定を用いた.統計ソフトはjamovi ver.2.0.0を使用し,有意水準は5%未満とした.
【結果】分析1)転倒群は非転倒群よりバランス能力(BBS)が有意に低い(p = 0.015)にも関わらず,自己能力評価には差がなかった(p = 0.062).また,人口統計学的要因やSIAS,HDS-Rなど他の心身機能に有意差はなかった.分析2)転倒群は患者−リハ,患者−Ns間でのSSES差分値が非転倒群と比べて有意に高かった(それぞれp = 0.022,p = 0.006).これらはいずれも正の値であり,職員との認識の差は,患者の過信であった.
【考察】分析1の結果から,転倒群は,非転倒群よりもバランス能力が低いにも関わらず,自己能力評価には非転倒群と差がなかったことから,自身の能力に見合わず過信していたことが明らかとなった.分析2の結果では,転倒群は非転倒群と比較して,担当リハ,Nsの評価よりも患者が自己能力評価を高く評価しており,その認識の差は患者の過信であった.これら2つの結果から,本研究においては,患者の自己能力の過信が転倒に寄与した可能性が考えられる.また,心身機能はBBSのみ転倒群が有意に低く,過信に加え,バランス能力の低下が転倒に影響した可能性もある.今後は年齢,心身機能等の影響を統制した上で,患者の過信が独立して転倒に及ぼす影響について検証が必要である.さらに,今回作成したSSESの臨床応用に向けて,評価ツールとしての信頼性,妥当性についても検証していきたい.
【方法】対象は,2021年10月から2022年12月までに当院回復期リハ病棟に入院した脳卒中患者150名のうち,除外者を除いた101名.性別は男性59名,女性42名で,平均年齢は70.3±13.5歳であった.調査期間中の転倒者は16名だった.除外基準は,意識障害,失語症,認知症の理由によりコミュニケーションが困難な者とした.なお,本研究は,横浜新緑総合病院倫理委員会の承認を受け,個人情報を保護し,対象者からインフォームド・コンセントを得ている.
患者の自己能力評価は,我々が独自に作成したShinmidori self-efficacy scale(以下SSES)を使用した.SSESでは病棟での15項目の動作(例:床の物を立って拾う,トイレでの下衣操作)について,患者が「転倒せずに遂行できる自信度」を1から7点で自己評価した.満点は105点であり,高得点ほど高い自信度を表す.評価は入棟1週間後に行い,その後は毎月行った.また,患者との認識の差を示す指標として,担当リハ・看護師(Ns)も同時期にSSESにて患者の動作能力を推測で評価した.SIAS,バランス能力(BBS),HDS-Rなどの心身機能も同時期に評価した.
分析1)患者の過信やその他要因と転倒との関連を検証するため,患者を転倒・非転倒群に分類し,SSES得点や心身機能などを比較した.分析2)患者とリハ,Ns間の認識の差と転倒との関連を検証するため,SSESの患者得点からリハとNsの得点をそれぞれ減じたSSES差分値を算出し,両群で比較した.なお,このSSES差分値が正の場合,「患者の過信」と定義した.統計分析は,Studentのt検定,Mann-Whitneyの U検定,カイ二乗検定を用いた.統計ソフトはjamovi ver.2.0.0を使用し,有意水準は5%未満とした.
【結果】分析1)転倒群は非転倒群よりバランス能力(BBS)が有意に低い(p = 0.015)にも関わらず,自己能力評価には差がなかった(p = 0.062).また,人口統計学的要因やSIAS,HDS-Rなど他の心身機能に有意差はなかった.分析2)転倒群は患者−リハ,患者−Ns間でのSSES差分値が非転倒群と比べて有意に高かった(それぞれp = 0.022,p = 0.006).これらはいずれも正の値であり,職員との認識の差は,患者の過信であった.
【考察】分析1の結果から,転倒群は,非転倒群よりもバランス能力が低いにも関わらず,自己能力評価には非転倒群と差がなかったことから,自身の能力に見合わず過信していたことが明らかとなった.分析2の結果では,転倒群は非転倒群と比較して,担当リハ,Nsの評価よりも患者が自己能力評価を高く評価しており,その認識の差は患者の過信であった.これら2つの結果から,本研究においては,患者の自己能力の過信が転倒に寄与した可能性が考えられる.また,心身機能はBBSのみ転倒群が有意に低く,過信に加え,バランス能力の低下が転倒に影響した可能性もある.今後は年齢,心身機能等の影響を統制した上で,患者の過信が独立して転倒に及ぼす影響について検証が必要である.さらに,今回作成したSSESの臨床応用に向けて,評価ツールとしての信頼性,妥当性についても検証していきたい.