第57回日本作業療法学会

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一般演題

脳血管疾患等

[OA-14] 一般演題:脳血管疾患等 14

Sun. Nov 12, 2023 9:40 AM - 10:40 AM 第2会場 (会議場A1)

[OA-14-2] 脳梗塞後に小字症を呈した高齢女性が書字活動を再開するに至った一例

田山 大介 (医療法人社団 西宮回生病院リハビリテーション部)

【はじめに】
小字症はパーキンソン病やパーキンソン症候群の患者に認められるとされており,これらの疾患における代表的な症状として知られている.しかし,小字症に対するアプローチは訓練場面に限定された報告が多く,生活場面への汎化に関する報告は少ない.今回,はがきや手紙を日常的に書いていた脳梗塞後の患者に対し作業療法を実施し,生活での書字活動の再開に至った症例を経験したため報告する.なお,本報告に関して本人に口頭と文章で説明をした上で,同意の署名を得ている.
【症例紹介】
80歳代,女性,右利き.独居で身の回りのことは自立しており,はがきや手紙を友人らと頻回にやり取りしていた.現病歴:脳塞栓と診断されA病院に入院し,病後16日に当院回復期病棟へ転院となった.同日より作業療法を開始し,徐々に日常生活活動の改善を認めた.病後65日に「字が書けなくなって困っている.」と発言があり,書字の評価を開始した.脳画像所見:左放線冠にBADタイプの梗塞あり.両側基底核に陳旧性梗塞と前頭葉優位のびまん性脳萎縮を認めた.
【初期評価】
病後66日.FIM107点(運動73点,認知34点).長谷川式簡易知能スケール(HDS-R) 27/30点.Frontal Assessment Battery 16/18点.Action Research Arm Test(ARAT)55/57点,Box and Block Test(BBT)右28個,左32個.振戦なし.書字評価:鉛筆などの把持は可能であった.書字開始時は判読可能な文字の大きさだが,1行程度で小字となり,4行程度で他者,本人ともに判読困難な小字となった.書字中にOTが字の大きさを指摘するも,改善しなかった.カナダ作業遂行測定(COPM)はがき(手紙)を書くこと,遂行度1/10,満足度1/10.
【経過】
Goal Attainment Scalingにて目標設定を行い,レベル0を声掛けなしではがきに8行程度の文を書いて他者に送る,とした.運筆のストロークごとに指定の点をペン先でタッチすることで小字の防止を認めたが,時間を要し実用性に乏しかった.そこで,メトロノームのアプリを使用して,運筆のストロークを一定間隔で区切ると,小字の防止や効果の延長を認めた.本人にアプリ操作の指導を行い,作業療法以外の場面でもアプリを使用した書字を習慣づけた.徐々に書字に自信を得た発言が増え,長文での小字は残存したものの,自ら他患に手紙を書いて渡す等,書字活動の再開に至った.
【結果】
病後126日.FIM118点(運動84点,認知34点).ARAT57/57点,BBT右44個,左48個.書字評価:8行程度以内であれば他者,本人ともに判読可能な文字の大きさとなる.内容を考えながら書字をした場合,早い段階で小字となりやすい.友人にもらった便箋に自ら手紙を書いて他患に渡すなどしている.COPMはがき(手紙を書くこと),遂行度9/10,満足度9/10.
【考察】
本症例は小字に対する自覚はあるが修正は困難であった.小字症はすくみ足と同様に加速現象による症状とされる.また,すくみ足はメトロノームを使用した聴覚刺激により改善することがあると報告されている.そこでメトロノームのアプリを使用した聴覚刺激により,書字における加速現象が抑制され,小字の改善に一定の効果があった可能性がある.そして書字に自信を取り戻したことで,主体的な書字活動の再開に至ったと示唆される.よって小字症に対し,メトロノーム等の聴覚的な刺激を使用した書字練習と行動戦略を用いることは生活での書字の再開に有効である可能性がある.一方で上肢機能の自然回復が書字における運動制御に影響した可能性を考慮する必要がある.