第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

脳血管疾患等

[OA-14] 一般演題:脳血管疾患等 14

2023年11月12日(日) 09:40 〜 10:40 第2会場 (会議場A1)

[OA-14-5] 脳血管障害後の嚥下障害患者に対して,チューインガムを用いて舌圧・嚥下機能改善を目的とした訓練の検討

内藤 大佑, 南雲 真斗, 田部 太介, 中畑 真 (リハビリテーション天草病院)

【はじめに】脳血管障害は,摂食嚥下障害を引き起こす代表的な疾患である.症状は多岐にわたるが,準備期から口腔期の問題によって,希望する食事をとれないことがある.その時舌運動は,口腔内で食塊形成を行い,咽頭に送り込むなど重要な役割を担っている.また舌圧が,舌運動機能や嚥下機能に相関があるといわれているため,舌圧強化訓練は数多く報告されている.今回,脳血管障害の治療の中で,チューインガム(以下,ガム)を押しつぶした際に,唾液嚥下を行いやすい内観が得られた.しかし,ガムを用いて,押しつぶす運動を取り入れた研究は,検証がなされていない.
【目的】本研究の目的は,脳血管障害患者に対して,ガムを用いて舌圧・嚥下機能改善を目的とした訓練の検討とする.
【対象】脳血管障害により嚥下障害を有する18名(男性10名・女性8名,平均年齢63.4±13.2歳,発症からの期間67.2±47.8日)とした.選定方法を以下に述べる.また本研究は当院の倫理委員会の許可を得て行われている.入院した患者のうち脳血管障害で嚥下障害のある方で選定した.そのうち,ガムによる誤嚥リスクをMini-Mental State Examination27点以上かつ藤島グレード7点以上の嚥下障害軽症者で行った.当院の食事形態は,医師の判断で変更され,必要に応じて嚥下造影検査を用いて決定している.その中で本研究に口頭・書面にて同意の得られた18名を対象とした.
【方法】研究デザインは前後比較実験で行った.ガム訓練の実施前後に舌圧・反復唾液嚥下テスト(Repetitive Saliva Swallowing Test;以下,RSST)の測定を3回実施した.舌圧の測定はJMS製舌圧測定器で行った.ガム訓練は予備実験で健常者に実施し,舌圧向上の有効性が示されている.実施姿勢は,食事姿勢に準じて車いす座位もしくは端坐位にて実施する.内容は,1.柔らかくなるまで噛む(1分30秒から2分前後) 2.丸める3.押しつぶす(舌で硬口蓋に)の3工程で,2と3を繰り返し10分間行った.その時に押しつぶす際の感触や広がり具合を適時聞きながら行った.またガムの選定は健常者に対する官能評価で決定されガム(COOL MINT;LOTTE Co.)1枚で行った.また義歯装着者には訓練実施時に,ガムの付着するリスクがあるため外して実施した.統計処理は,実施前後の舌圧とRSSTにおいてSPSSを用いて対応のあるt検定を実施する.有意水準をp<0.05とした.
【結果】平均舌圧においては,実施前が24.3±9.3Kpa,実施後が29.8±11.0Kpaであり平均で5.5 Kpa増加が認められた(p<0.001).平均RSSTにおいては,実施前が3.3±1.6回,実施後が4.1±1.9回であり平均で0.8回と増加が認められた. (p<0.001).
【考察】今回実施前後の舌圧とRSSTともに,増加が得られた(p<0.001)ことから,脳血管障害後の嚥下障害患者にガムを用いて,舌圧・嚥下機能改善を目的とした訓練としての有効性が示唆された.今回のガム訓練では,従来の舌圧強化訓練と比し,物品が手に入りやすく,訓練内容も簡易的で導入しやすい利点があると考える.またガムは形が変化しやすくその変化に着目することで,注意の外的焦点化が促され舌運動機能や,舌圧の向上に関与したのではないかと考えた.また嚥下反射惹起には,口腔内圧を高めて前舌を硬口蓋に押し当てて,奥舌を挙上するタイミングで舌骨が挙上する.RRSTの向上には,この嚥下反射惹起の際,舌のアンカーとして機能しやすく適切な筋出力が得られるようになったのではないかと考えた.しかし,今回の実験では,即時効果としての効果が実証されたが今後は経時的な訓練としての妥当性を検証する必要がある.