第57回日本作業療法学会

Presentation information

一般演題

脳血管疾患等

[OA-15] 一般演題:脳血管疾患等 15

Sun. Nov 12, 2023 9:40 AM - 10:40 AM 第3会場 (会議場B1)

[OA-15-3] 回復期リハビリテーション病棟の脳卒中患者に対する促通反復療法とCI療法を段階的に組み合わせた複合アプローチの効果-症例報告-

田中 友彬, 岩井 佑樹 (医療法人社団 三喜会 鶴巻温泉病院 リハビリテーション部)

【はじめに】
脳卒中後上肢麻痺に対するアプローチの代表格としてはCI療法がある.CI療法は回復期と慢性期におけるエビデンスは確立しているが,急性期の麻痺側上肢機能の改善効果については一定していない.また,KitagoらはCI療法による麻痺側上肢の機能改善は代償戦略の結果である可能性を示している.つまり,急性期にCI療法のみを集中的に実施した場合,機能改善を最大限に導けない可能性がある.今回,脳卒中後上肢麻痺(主に手指)を呈した症例に対して,促通反復療法(RFE)とCI療法を段階的に組み合わせて実施した結果,麻痺側上肢機能の改善と物品操作能力の向上を認め,ウクレレ演奏を再開するに至った為,以下に報告する.尚,本研究は当院臨床研究倫理審査小委員会の承認を得ている.
【症例紹介】
症例は60代の男性で右橋梗塞を発症し,第17病日後に当院へ転院した.症例はウクレレ演奏の再開を希望していた.入院時の認知機能は良好で,上肢機能はFugl-Meyer Assessment(FMA)上肢項目が56/66点(減点:手関節9/10点,手指8/14点,協調性3/6点),感覚項目が12/12点,Simple Test For Evaluating Hand Function(STEF)左42/100点であった.ウクレレの満足度に対する評価はCanadian Occupational Performance Measure(COPM)で1.5であった.
【介入方針】
本症例はウクレレ演奏という手指の巧緻性を必要とする動作が目標であった.その為,運動麻痺の改善に重要な量的練習をコンセプトに持つ治療法,且つ手指機能に対する効果が示されている促通反復療法(RFE)と,物品操作能力に対する効果が示されているCI療法を段階的に組み合わせて実施することとした.
【方法と経過と結果】
第19〜33病日では,手指の分離運動(各指の完全伸展)の獲得を目的にRFEに電気刺激療法を併用する治療を主に実施した.また,代償動作が極力出現しない低い難易度に調整したCI療法(主に自主練習で)を導入した.結果,各指の最大伸展が可能となり,FMAは62点,STEFは70点となった.その為,第34病日からはRFEを中断し,ウクレレの実動作練習を含めたCI療法を中心に実施した.結果,ウクレレ演奏が一部可能となり,FMAは65点,STEFは94点となった.しかし,ウクレレの弦を素早く抑える手指の動きが不十分であり,満足度はCOPMで1.5であった為,第41病日以降からはRFEを追加し,手指屈曲伸展パターンを集中的に実施した.結果,第60病日でFMAが66点,STEFが99点,COPMが7.5となり,ウクレレ演奏を再開できた.
【考察】
アウトカムの得点変化量はFMAが10点,STEFが57点,COPMの満足度が6点であった.この結果を臨床上重要な最小変化量(MCID)と比較した場合,FMAは10点,COPMは2点とされており,本症例は2つの項目で超える変化を認めた.このことから急性期~亜急性期においてRFEとCI療法を段階的に組み合わせて実施する複合アプローチは麻痺側上肢機能の改善と物品操作能力の向上に対して有用である可能性が示唆された.