[OA-15-5] 課題指向型訓練とTransfer Packageの併用が麻痺手の行動変容を促進した一症例
【はじめに】
Constraint-induced movement therapy(CI療法)の目的のひとつは課題指向型訓練で獲得した麻痺手の機能を,実際の生活動作にTransfer Package(TP)を用いて転移することとされている.しかし,臨床では麻痺側上肢を日常生活に汎化することに苦慮する場面を多く経験する.今回,脳卒中後,生活行為に対して麻痺手に意識が向けられず,使用機会の減少が生じた症例を経験した.本人のHOPEである包丁操作獲得に対して課題指向型訓練とTPによる介入を行った.その結果,麻痺側上肢の使用頻度が増加し包丁操作獲得,復職が可能となった症例を報告する.本症例にはヘルシンキ宣言に基づき,口頭にて十分な説明を行い,書面による同意を得て介入した.
【症例紹介】
70歳代男性.利き手は元々左利き.幼少期に右利きに矯正されたが包丁は右手で持ったことがなかった.病前ADLは自立.職業は蕎麦屋を経営.厨房に立ち調理すること,配達が主な仕事.本人にとって生きがいは仕事であった.X年Y月に右心原性脳塞栓症を発症し,発症26日後に当院入院した.入院時の上肢機能は,Brunnstrom Recovery Stage(BRS)で上肢Ⅴ手指Ⅲ下肢Ⅵ,Fugl-Meyer Assessment (FMA)の上肢運動項目は36/66点.日常生活における麻痺側上肢の参加状況として,Motor Activity Log(MAL)はAmount of Use(AOU)0.1/5点であり日常生活で麻痺側上肢の使用は認められなかった.本症例からは「生活は右手でできるから左手は包丁さえ持てればいい」と発言が聞かれた.麻痺側手指筋出力低下により把持動作が困難.本人にとって早期ADL獲得は非麻痺側上肢である程度確立できているために生活場面で左手を使用する目的がないことから,麻痺手使用機会の減少が生じていた.
【方法・経過】
介入はCI療法による課題指向型訓練とTPを実施した.TPでは強化学習を意識した4つの目標を設定,自助具作成,日記の記載を実施した.課題指向型訓練では装具療法を併用しながら物品操作とADL練習を行った.日記は日常生活麻痺手使用状況確認表(全19項目)を作成し,本症例に毎日AOUの順序尺度を用いて自己評価した.
【結果】
発症85日経過し,BRS上肢Ⅴ手指Ⅳ下肢Ⅵ,FMA上肢運動項目48/66点で手指の集団屈曲伸展が可能となった.AOU3.45点となり,日常生活場面でも麻痺側上肢を自ら使用するようになった.また,本症例からは「生活でも左手を使えるようになってきた」という発言の変化も聞かれ,本人のHOPEである包丁操作獲得が可能となった.退院後,外来移行し継続的に治療を受けながら蕎麦職人として厨房に立っている.現在はHOPEの包丁操作が職人レベルで獲得でき在宅生活を送っている.
【考察】
リハビリテーション介入における最小変化量(MCID)は,FMAが9~10点以上,MALのAOUが0.5点以上とされている.本症例における介入は,MCIDを超える変化を認めており,効果的な介入であったと示唆される.また介入当初,「麻痺手を使ってほしい」OTと「生活は右手でできるから左手は包丁さえ持てればいい」という本人とのイメージに乖離があった.そのためTPを用いて身体機能に合わせた目標設定を行い,日記による現実検討の機会がセルフモニタリングにて行われ,日常生活へ行動変容が促進した.本症例は早期から課題指向型訓練とTPを併用した介入を実施したことで,HOPEである包丁操作獲得,復職が可能となった.今後は症例数を増やし,課題指向型訓練とTPの介入開始時期や介入期間についての効果を検証していきたい.
Constraint-induced movement therapy(CI療法)の目的のひとつは課題指向型訓練で獲得した麻痺手の機能を,実際の生活動作にTransfer Package(TP)を用いて転移することとされている.しかし,臨床では麻痺側上肢を日常生活に汎化することに苦慮する場面を多く経験する.今回,脳卒中後,生活行為に対して麻痺手に意識が向けられず,使用機会の減少が生じた症例を経験した.本人のHOPEである包丁操作獲得に対して課題指向型訓練とTPによる介入を行った.その結果,麻痺側上肢の使用頻度が増加し包丁操作獲得,復職が可能となった症例を報告する.本症例にはヘルシンキ宣言に基づき,口頭にて十分な説明を行い,書面による同意を得て介入した.
【症例紹介】
70歳代男性.利き手は元々左利き.幼少期に右利きに矯正されたが包丁は右手で持ったことがなかった.病前ADLは自立.職業は蕎麦屋を経営.厨房に立ち調理すること,配達が主な仕事.本人にとって生きがいは仕事であった.X年Y月に右心原性脳塞栓症を発症し,発症26日後に当院入院した.入院時の上肢機能は,Brunnstrom Recovery Stage(BRS)で上肢Ⅴ手指Ⅲ下肢Ⅵ,Fugl-Meyer Assessment (FMA)の上肢運動項目は36/66点.日常生活における麻痺側上肢の参加状況として,Motor Activity Log(MAL)はAmount of Use(AOU)0.1/5点であり日常生活で麻痺側上肢の使用は認められなかった.本症例からは「生活は右手でできるから左手は包丁さえ持てればいい」と発言が聞かれた.麻痺側手指筋出力低下により把持動作が困難.本人にとって早期ADL獲得は非麻痺側上肢である程度確立できているために生活場面で左手を使用する目的がないことから,麻痺手使用機会の減少が生じていた.
【方法・経過】
介入はCI療法による課題指向型訓練とTPを実施した.TPでは強化学習を意識した4つの目標を設定,自助具作成,日記の記載を実施した.課題指向型訓練では装具療法を併用しながら物品操作とADL練習を行った.日記は日常生活麻痺手使用状況確認表(全19項目)を作成し,本症例に毎日AOUの順序尺度を用いて自己評価した.
【結果】
発症85日経過し,BRS上肢Ⅴ手指Ⅳ下肢Ⅵ,FMA上肢運動項目48/66点で手指の集団屈曲伸展が可能となった.AOU3.45点となり,日常生活場面でも麻痺側上肢を自ら使用するようになった.また,本症例からは「生活でも左手を使えるようになってきた」という発言の変化も聞かれ,本人のHOPEである包丁操作獲得が可能となった.退院後,外来移行し継続的に治療を受けながら蕎麦職人として厨房に立っている.現在はHOPEの包丁操作が職人レベルで獲得でき在宅生活を送っている.
【考察】
リハビリテーション介入における最小変化量(MCID)は,FMAが9~10点以上,MALのAOUが0.5点以上とされている.本症例における介入は,MCIDを超える変化を認めており,効果的な介入であったと示唆される.また介入当初,「麻痺手を使ってほしい」OTと「生活は右手でできるから左手は包丁さえ持てればいい」という本人とのイメージに乖離があった.そのためTPを用いて身体機能に合わせた目標設定を行い,日記による現実検討の機会がセルフモニタリングにて行われ,日常生活へ行動変容が促進した.本症例は早期から課題指向型訓練とTPを併用した介入を実施したことで,HOPEである包丁操作獲得,復職が可能となった.今後は症例数を増やし,課題指向型訓練とTPの介入開始時期や介入期間についての効果を検証していきたい.