第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

脳血管疾患等

[OA-2] 一般演題:脳血管疾患等 2

2023年11月10日(金) 13:20 〜 14:20 第3会場 (会議場B1)

[OA-2-4] ピアニストの右第Ⅲ指におけるフォーカルジストニアの治療効果と結果の解釈

杉山 善彦1, 安間 真理子1, 北出 知也1, 重松 孝2, 藤島 一郎2 (1.聖隷福祉事業団 浜松市リハビリテーション病院リハビリテーション部, 2.聖隷福祉事業団 浜松市リハビリテーション病院診療部)

【はじめに】音楽家の運動障害には様々な疾患があり,その一つとして,局所性ジストニア(Focal Dystonia,FD)がある.FDは,不随意で持続的な筋収縮を引き起こす神経疾患でる.FDによる治療は,主に欧米で行われているが,本邦での報告は少ない.治療する医療機関も少なくかつ治療法も確立されていないため,音楽家の道が閉ざされてしまうケースも多いと云われている.
【目的】先行研究にてピアノの鍵盤の重さを自在に操作するシステムを用いた『ハプティックデバイス』を活用し,鍵盤の重さの違いを弁別する課題と回答の正誤の提示を繰り返すことで,FD患者の繊細な力を制御する能力が向上することが報告されている.我々は,打鍵の強さ制御するシステムは持ち合わせていないため,演奏パターンやtempoに着目し,訓練と評価を行った.ピアノ演奏における様々な因子を検討して,治療効果を適確に患者へフィードバックできる方法を探ることが目的である.本症例に対し,書面にて本報告の同意を得ている.
【方法】本症例は,約半年前に症状が出現した30歳代女性ピアノ奏者である.ジストニア症状としては,鍵盤打鍵時,右Ⅲ指がDIP伸展位をとり,速い動きになるとPIP屈曲位が強まることが課題であった.本症例に対し,内服治療・経頭蓋直流電気刺激(transcranial direct current stimulation,tDCS)・スプリント療法・感覚トリックを併用,理学療法での姿勢調整やストレッチ指導も加え,計4日間治療を行った.内服治療はアーテン(トリヘキシフェニジル塩酸塩)を使用. tDCSは,両側の大脳皮質運動野左に陰極,右に陽極(2mA・20分/日)刺激下で,鏡像動作(左右対称の音階)を実施.スプリント療法では,右Ⅲ指DIP過伸展抑制,内在筋使用促進,および感覚トリックを目的とし,作成.さらに感覚トリックでは罹患肢に手袋やアームスリング(オモニューレクサ® )を装着し,演奏を実施.治療効果判定にはMIDI (Musical Instrument Digital Interface,MIDI)計測ソフトJAMM Ver0.1.0ならびにMIDIキーボード(KAWAI VPC1)を使用し,計測・分析を実施した.分析内容としては,打鍵時間のばらつき・離鍵時間のばらつき・押下時間のばらつきをCスケールtempo100・160BPM,Bmスケールtempo100・160BPM,G7アルペジオtempo100・160BPMそれぞれ計6パターンで評価した.
【結果】打鍵より離鍵や押下にて治療効果があった.主にCスケールtempo100BPM,G7アルペジオtempo100・160BPMでは,白鍵のみの組み合わせであると離鍵・押下のばらつきで軽減が目立ってみられた.また,打鍵のばらつきはCスケールtempo100BPMで軽減がみられた.自覚症状では,スプリント装着にて上行形演奏が弾きやすく,手袋装着にて下行形演奏が弾きやすくなったことや姿勢の調整で「身体が軽くなった」や「左に意識が行きやすくなった」と効果を感じる発言がみられるようになった.
【考察】打鍵より離鍵や押下のばらつきが軽減したのは,複合的な治療により,手指の巻き込み症状が軽減し,屈曲運動から伸展運動への切り替えが上達したからだと考える.今後,演奏パターンやtempoに加え,f(フォルテ)やp(ピアノ)など強弱を変えて演奏することで打鍵速度によるばらつきの変化も評価し,さらに繊細な力を制御する能力(タッチ)を評価できるのではないかと考える.また,スケールやアルペジオでの改善は得られても,実際の演奏レベルでの改善は同等でないと思われる.そのため,患者の症状軽減度とばらつきの関係について調査していく必要がある.患者の症状軽減度指標には視覚アナログ尺度(Visual Analogue Scale,VAS)を使用し,発症前と比較した評価を行った方が良いと考える.