[OA-3-1] 脳血管障害者Trail Making Test遂行における知覚認知運動プロセスの定量的評価
【背景と目的】
Trail Making Test(TMT)は脳血管障害者の認知機能評価法として最も広く用いられている神経心理学的検査の一つである.TMT-Aでは視覚探索能力と注意機能,TMT-Bでは注意機能とワーキングメモリーが主に貢献していることが報告されている.また,課題遂行を可能にする共通基盤としてターゲットを脳内で決定,紙面上の位置を視覚的に確認,自己とターゲットとの空間座標を計算,鉛筆で線を結ぶという一連の知覚認知運動プロセスの存在が知られている.しかしながら,このような知覚認知運動の定量的評価に着目した報告は未だ十分ではない.本研究の目的はTMT遂行中の知覚認知運動プロセスを要素ごとに評価し,脳血管障害者の認知機能評価に必要な基礎的知見を得ることであった.
【方法】
対象者は脳卒中患者5名(68.6 ± 6.9歳,左麻痺4名,右麻痺1名)であった.本研究は研究実施施設の倫理審査委員会の承認の下,全ての対象者から研究参加の同意を得た上で実施した.測定にはウェアラブルアイトラッカー(Tobii Pro Glasses 2),電子版上肢機能評価システム(株式会社ワークジョイ製)を使用した.対象者はアイトラッカーを装着して,電子版TMTの視覚探索課題(TMT-A・TMT-B)を実施した.TMT-Aでは1から15までの数字が,TMT-Bでは1から8までの数字と"あ"から"き"までの平仮名がタッチパネル式画面(33.0×53.2 cm)上に現れ,対象者はタッチペンを用いて15個のターゲットを昇順に素早くタップしていった.課題遂行中の視覚指標として,1) 追視時間:ターゲットを発見するまでの時間(ミリ秒),2) 固視時間:注視点がターゲット上に留まった時間(ミリ秒),3) 目と手の協調時間:ターゲット発見からタップするまでの時間(ミリ秒)を算出した.各課題の所要時間と視覚指標との関連性をSpearmanの相関係数を用いて分析した.統計処理にはIBM SPSS Statistics 27を使用し,有意水準を 5%未満とした.
【結果】
TMT-Aにおける所要時間の平均値は17.9±3.3秒,視覚指標の平均値は追視時間が717.9±202.2ミリ秒,固視時間が599.6±90.7ミリ秒,目と手の協調時間が709.0±70.2ミリ秒であった.TMT-Bにおける所要時間の平均値は34.2±10.4秒,視覚指標の平均値は追視時間が1522.3±398.0ミリ秒,固視時間が697.4±90.5ミリ秒,目と手の協調時間が823.8±61.3ミリ秒であった.TMT-Aの所要時間は「固視」時間,「目と手の協調」時間と有意な正の相関を示した(rs=1.00,p<0.01).TMT-Bの所要時間は,「追視」時間と有意な正の相関を示した(rs =0.90,p<0.05).
【考察】
「固視」と「目と手の協調」時間が延長するほどTMT-Aの遂行時間が延長し,「追視」時間が延長するほどTMT-Bの遂行時間が延長していた.これらの結果は,TMT-Aでは空間座標構築能力と運動能力,TMT-Bではターゲット決定に必要な認知能力が主たる機能であることを示唆する結果であった.脳血管障害者の認知機能を定量的に評価するための新しい知見が得られた.
Trail Making Test(TMT)は脳血管障害者の認知機能評価法として最も広く用いられている神経心理学的検査の一つである.TMT-Aでは視覚探索能力と注意機能,TMT-Bでは注意機能とワーキングメモリーが主に貢献していることが報告されている.また,課題遂行を可能にする共通基盤としてターゲットを脳内で決定,紙面上の位置を視覚的に確認,自己とターゲットとの空間座標を計算,鉛筆で線を結ぶという一連の知覚認知運動プロセスの存在が知られている.しかしながら,このような知覚認知運動の定量的評価に着目した報告は未だ十分ではない.本研究の目的はTMT遂行中の知覚認知運動プロセスを要素ごとに評価し,脳血管障害者の認知機能評価に必要な基礎的知見を得ることであった.
【方法】
対象者は脳卒中患者5名(68.6 ± 6.9歳,左麻痺4名,右麻痺1名)であった.本研究は研究実施施設の倫理審査委員会の承認の下,全ての対象者から研究参加の同意を得た上で実施した.測定にはウェアラブルアイトラッカー(Tobii Pro Glasses 2),電子版上肢機能評価システム(株式会社ワークジョイ製)を使用した.対象者はアイトラッカーを装着して,電子版TMTの視覚探索課題(TMT-A・TMT-B)を実施した.TMT-Aでは1から15までの数字が,TMT-Bでは1から8までの数字と"あ"から"き"までの平仮名がタッチパネル式画面(33.0×53.2 cm)上に現れ,対象者はタッチペンを用いて15個のターゲットを昇順に素早くタップしていった.課題遂行中の視覚指標として,1) 追視時間:ターゲットを発見するまでの時間(ミリ秒),2) 固視時間:注視点がターゲット上に留まった時間(ミリ秒),3) 目と手の協調時間:ターゲット発見からタップするまでの時間(ミリ秒)を算出した.各課題の所要時間と視覚指標との関連性をSpearmanの相関係数を用いて分析した.統計処理にはIBM SPSS Statistics 27を使用し,有意水準を 5%未満とした.
【結果】
TMT-Aにおける所要時間の平均値は17.9±3.3秒,視覚指標の平均値は追視時間が717.9±202.2ミリ秒,固視時間が599.6±90.7ミリ秒,目と手の協調時間が709.0±70.2ミリ秒であった.TMT-Bにおける所要時間の平均値は34.2±10.4秒,視覚指標の平均値は追視時間が1522.3±398.0ミリ秒,固視時間が697.4±90.5ミリ秒,目と手の協調時間が823.8±61.3ミリ秒であった.TMT-Aの所要時間は「固視」時間,「目と手の協調」時間と有意な正の相関を示した(rs=1.00,p<0.01).TMT-Bの所要時間は,「追視」時間と有意な正の相関を示した(rs =0.90,p<0.05).
【考察】
「固視」と「目と手の協調」時間が延長するほどTMT-Aの遂行時間が延長し,「追視」時間が延長するほどTMT-Bの遂行時間が延長していた.これらの結果は,TMT-Aでは空間座標構築能力と運動能力,TMT-Bではターゲット決定に必要な認知能力が主たる機能であることを示唆する結果であった.脳血管障害者の認知機能を定量的に評価するための新しい知見が得られた.