第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

脳血管疾患等

[OA-3] 一般演題:脳血管疾患等 3

2023年11月10日(金) 13:20 〜 14:20 第4会場 (会議場B5-7)

[OA-3-4] 80歳以上の脳卒中患者におけるADL能力向上の規定因子

石森 卓矢1, 門脇 一樹1, 野本 正仁1, 富田 庸介2, 美原 盤3 (1.公益財団法人脳血管研究所 美原記念病院リハビリテーション部, 2.公益財団法人脳血管研究所 美原記念病院リハビリテーション科, 3.公益財団法人脳血管研究所 美原記念病院脳神経内科)

[はじめに]一部の地域において,80歳以上の高齢者に対するリハビリテーション(リハ)に関して6単位を超える単位数の提供を過剰とし,7単位以上実施した単位を減額査定となっていることが問題となっている.我々は,80歳以上の高齢者に対するリハ量とその効果の関連性について単変量解析を行い,FIM点数の改善を認めた患者のリハ合計,PT,OT単位数は,改善を認めなかった患者に比べ多いことを報告した(第56回日本作業療法学会2022).今回,脳卒中患者を80歳未満と80歳以上の2群に分け,それぞれの群におけるリハ量とADL能力との関連について検討した.
[対象]令和2年4月以降に当院回復期リハ病棟に入院し,令和4年3月までに退院した脳卒中患者752名の内,再発患者と状態悪化などで途中転院した患者を除く567名(男性314名,女性253名,71.4±12.9歳)を対象とした.疾患の内訳は脳梗塞354名,脳出血171名,クモ膜下出血42名であった.研究対象とすることに関する説明と同意は,インフォームドコンセントを省略する代わりに,当法人ホームページにて研究情報を公開し対象者が拒否できる機会を保障し,当法人倫理委員会の承認を受けた(受付番号114-05).
[方法]対象を80歳未満の群411名(男性257名,女性154名,66.0±10.9歳)と80歳以上の群156名(男性57名,女性99名,85.5±4.3歳)の2群に分け,それぞれの群において,退院時のFIM合計点数から入院時のFIM合計点数を引いたFIM合計利得点数を目的変数,1日あたりのPT単位数,OT単位数,ST単位数,さらに交絡因子を考慮して先行研究においてFIM合計利得点数の影響因子として報告されている年齢,発症から入院までの日数,入院日数,入院時FIM合計点数を説明変数とし重回帰分析を実施した.すべての解析は,統計解析ソフトのExcel統計2013を用い,統計学的有意水準は5%未満とした.
[結果]両群ともに,説明変数である1日あたりのPT単位数,OT単位数,ST単位数,年齢,発症から入院までの日数,入院日数,入院時FIM合計点数の各変数はVIF(分散拡大係数)<5であり,多重共線性を認めなかった.重回帰分析により抽出されたADL能力向上の規定因子は,80歳未満の群において,1日あたりのPT単位数(β=0.27),OT単位数(β=0.27),年齢(β=-0.16),発症から入院までの日数(β=-0.13),入院日数(β=0.28),入院時FIM合計点数(β=-0.19)であった(p<0.05).一方,80歳以上の群においては,1日あたりのOT単位数(β=0.33),入院日数(β=0.39),入院時FIM合計点数(β=0.27)であった(p<0.05).
[考察]一部の地域における80歳以上の高齢者に対するリハの7単位以上実施した単位が減額査定されていることは,80歳未満ではリハ効果が認められるが,80歳以上の高齢者はリハ効果が乏しいとの想定のもと行われていると思われる.しかしながら本研究の結果より,ADL能力向上の規定因子として,80歳未満の群は1日あたりのPT単位数とOT単位数の量が抽出され,80歳以上の群においても1日あたりのOT単位数が抽出された.80歳以上の高齢者は加齢による心身機能低下を抱えていることが少なくなく,これに加えて脳卒中による後遺症を呈した場合,ADL拡大に向けた自主的な活動が困難になると思われる.今回の結果から,積極的に活動範囲を拡大することが難しい80歳以上の脳卒中患者においてこそ,ADL拡大を推進するOTのリハ量を担保することが重要であると思われる.すなわち,80歳以上の脳卒中患者のリハ量に対して,年齢で一律にレセプト減額査定をすることは適切ではなく,患者の状態を把握した上で適切なリハ量を提供していくべきだと思われる.