第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

脳血管疾患等/MTDLP

[OA-5] 一般演題:脳血管疾患等 5/MTDLP 1

2023年11月10日(金) 14:30 〜 15:30 第3会場 (会議場B1)

[OA-5-1] 脳梗塞患者に対する急性期VR 介入における安全性の検証

早川 貴行, 山田 莞爾, 前川 侑宏, 岩田 健太郎 (神戸市立医療センター中央市民病院リハビリテーション技術部)

【背景】
急性期の脳梗塞患者におけるvirtual reality(VR)を用いたリハビリテーション(以下リハビリ)は作業療法(OT)の効果を高め,認知機能を改善すると報告されている.一方で,VR介入に関する安全性の報告はない.脳卒中発症後の急性期のVR 介入では,意識障害や運動麻痺,点滴や経鼻経管栄養などのライン管理が必要なため医療事故のリスクを伴うことが推測される.そのため,急性期におけるVR介入 の対象選定・中止基準の設定が必要である.
当院では,脳梗塞患者に対する急性期VR介入における対象の選定基準,中止基準を設定している.本研究では,対象選定および中止基準に基づいたVR介入の安全性の評価を検証することを目的とした.
【方法】
2022年11月1日から2023年2月1日に当院のStroke Care Unitあるいは脳卒中センターに入院した脳梗塞患者248例を対象とした単施設前向き介入研究を実施した.対象の包含基準は,1) 脳梗塞発症後14日以内,2)病前modified Rankin Scale (mRS): < 2,3) 研究への同意が得られた者とした.除外基準は,1) カテーテルチューブを挿入している,2)一過性脳虚血発作がある,3) 癲癇がある,4) 労作性狭心症がある,5)心筋梗塞直後で循環動態の不安定さがある,6) 心臓・肺・肝臓・腎臓などの重要臓器不全がある,7) 重度認知症や失語など高次脳機能障害がある,8) 心臓ペースメーカーの挿入や頭蓋骨への異常がある,9) 平均余命が3年未満である,10) 閉所恐怖症があるとした.
VR介入は,通常OTに加えて,週3~5回の頻度とし,介入時間は,初回10分,2回目15分,3回目以降20~30分を目標に実施した.VR介入では,REAL ™ (Penumbra社)を用いた上肢機能プログラム (アクティビティ) を作業療法士(OTR)の監視下で実施した.アクティビティは身体機能や認知機能向上のコンテンツで構成されており,OTRは目標に沿った上肢機能に関連し,かつ関心のあるコンテンツを選択した.また,症例ごとに課題難易度 (可動域範囲,回数,スピード,ゲーム性) を段階的に設定した.
評価項目は,有害事象の有無とした.有害事象は以下の3段階に分類して,1) 軽症: 眼精疲労や眩暈,倦怠感,乗り物酔いに類した症状,平衡感覚低下,注意力の低下など軽度の症状,治療を要さないもの,2) 中等症: 頭痛や悪心・嘔気,パニック感情など最小限,局所的,非侵襲的治療を要するもの,3) 重症: 転落による骨折や癲癇など入院期間の延長の必要があるものとした.本研究は,当院,倫理委員会の承認(承認番号: zn230101)を得て行った.
【結果】
対象のうち,包含基準を満たした6例を解析対象とした.対象者は,年齢: 72.0(49~89)歳,性別: 男2名・女4名,National Institutes of Health Stroke Scale: 4.5(3~11)点,Trials of Org 10172 in Acute Stroke Treatment分類: 大血管アテロ-ム梗塞4例,小血管病変1例,その他1例であった.VR介入は,脳梗塞発症からVR開始までの日数:6.5(6~8)日,総施行回数: 2.5(1~4)回,総施行時間: 35.0(10~60)分施行した.
6例のうち1例でVR中に軽症の有害事象を認め,眼精疲労と眩暈が観察された.有害事象の症例では,精神科の受診歴と緑内障と白内障の治療歴があった.
【結語】
本研究の脳梗塞患者に対する急性期VR介入では,中等症以上の有害事象は観察されなかった.しかし,少数のため今後も検証する必要がある.ただ,本研究は,対象の選定および介入の中止基準を設定したことで,重篤な有害事象がなかったことから,急性期から安全なVR介入が可能である.