[OA-6-1] 脳血管疾患者におけるドライビングシミュレーター上での事故回数と神経心理学的検査の関連
【序論】脳血管疾患後の後遺症者の自動車運転再開は,当事者の生活範囲を左右する非常に大きな課題である.自動車運転再開が入院中に目途が立たなかったとしても,退院後の生活を通じて,強く運転再開を希望する者も多い.その場合,医療機関で運転可否の判断を受けるが,当事者自身が運転再開の可否に納得できることが重要となる.当事者が納得するためには,ドライビングシミュレータ(以下,DS)の体験を通じて,基本的な運転能力,危険の予測や回避能力がフィードバックされることで,再開可の場合は不安軽減,不可の場合には納得のいく説明に有用と考える.運転再開評価の先行研究では,身体機能,神経心理学的検査が評価指標として扱われているが,DSから得られる様々な運転の定量指標については明確ではない.そこで,本研究では,当事者に最もわかりやすいと思われる事故回数に着目し,事故回数が脳血管疾患者の自動車運転再開と神経心理学的検査にどう関連するか明らかにすることを目的とした.
【方法】対象:脳血管疾患により金沢脳神経外科病院(以下,当院)に入院して運転中止となった患者の内,退院後に運転再開を希望して2019年2月から2022年12月の期間に運転評価を受けた115名を対象とした.運転評価検査が実施できなかった者4名を除外した.本研究は当院倫理委員会の承認(承認番号R04-09)を得て実施し,対象者にはオプトアウトの方法で同意を得た.最終的に,111名(65±10.6歳)が調査対象者となった. 研究デザイン:後方視的横断研究. 主要評価項目:外来受診時に実施された主治医の運転可否の判断結果,運動機能(退院時のBrunnstrom stage),神経心理学的検査(Mini Mental State Examination,日本版Trail Making Test partA partB(TMT-J partA partB),仮名拾いテスト,日本版脳卒中ドライバーのスクリーニング検査(ドット抹消,方向スクエアマトリクス,コンパススクエアマトリクスと道路標識))とDS評価項目(Hondaセーフティナビ(本田技研工業)を使用し実施された総合学習体験と呼ばれる市街地走行検査の全18項目)とした.分析方法:主治医の運転可否の判断結果から,運転可群と運転不可群の二群とし,DSの市街地走行検査の結果の違いの有無をWilcoxonの順位符号和検定で検討した.DS検査での事故回数に影響する神経心理学的検査の調査を重回帰分析にて実施した.目的変数は事故回数とし,説明変数は年齢,運動機能と神経心理学的検査からStep Wise法で選択した.有意水準は5%とした.統計処理にはR4.1.3を用いた.
【結果】対象者を運転可否で群分けした結果,運転可群は49名で不可群は62名であった.運転可否と関連のある市街地走行検査の検査項目は不停止,急ブレーキ,ウィンカー無し,後方確認不適,前方車両の見落とし,走行車線不適,車間距離不適,速度超過割合,速度超過平均速度,進路間違い,ヒヤリハット,事故回数であり(p<0.05),事故回数は運転可否の判断に関連していた.重回帰分析の結果,事故回数を説明する変数として, TMT-J partB,仮名拾いテスト,ドット末梢のお手つき回数,および方向スクエアマトリクスが有用となった(p<0.05).回帰式は有意(p<0.05)であり調整済決定係数は0.3であった.
【考察】DSの事故回数と運転可否は関連しており,事故回数は視覚情報処理速度,遂行機能,視覚情報処理精度に関する検査と関連していることが明らかになった.作業療法士は,運転を希望する当事者に対しては,入院中から運転再開に関連するこれらの機能改善を含めて治療を計画することが重要と考える.
【方法】対象:脳血管疾患により金沢脳神経外科病院(以下,当院)に入院して運転中止となった患者の内,退院後に運転再開を希望して2019年2月から2022年12月の期間に運転評価を受けた115名を対象とした.運転評価検査が実施できなかった者4名を除外した.本研究は当院倫理委員会の承認(承認番号R04-09)を得て実施し,対象者にはオプトアウトの方法で同意を得た.最終的に,111名(65±10.6歳)が調査対象者となった. 研究デザイン:後方視的横断研究. 主要評価項目:外来受診時に実施された主治医の運転可否の判断結果,運動機能(退院時のBrunnstrom stage),神経心理学的検査(Mini Mental State Examination,日本版Trail Making Test partA partB(TMT-J partA partB),仮名拾いテスト,日本版脳卒中ドライバーのスクリーニング検査(ドット抹消,方向スクエアマトリクス,コンパススクエアマトリクスと道路標識))とDS評価項目(Hondaセーフティナビ(本田技研工業)を使用し実施された総合学習体験と呼ばれる市街地走行検査の全18項目)とした.分析方法:主治医の運転可否の判断結果から,運転可群と運転不可群の二群とし,DSの市街地走行検査の結果の違いの有無をWilcoxonの順位符号和検定で検討した.DS検査での事故回数に影響する神経心理学的検査の調査を重回帰分析にて実施した.目的変数は事故回数とし,説明変数は年齢,運動機能と神経心理学的検査からStep Wise法で選択した.有意水準は5%とした.統計処理にはR4.1.3を用いた.
【結果】対象者を運転可否で群分けした結果,運転可群は49名で不可群は62名であった.運転可否と関連のある市街地走行検査の検査項目は不停止,急ブレーキ,ウィンカー無し,後方確認不適,前方車両の見落とし,走行車線不適,車間距離不適,速度超過割合,速度超過平均速度,進路間違い,ヒヤリハット,事故回数であり(p<0.05),事故回数は運転可否の判断に関連していた.重回帰分析の結果,事故回数を説明する変数として, TMT-J partB,仮名拾いテスト,ドット末梢のお手つき回数,および方向スクエアマトリクスが有用となった(p<0.05).回帰式は有意(p<0.05)であり調整済決定係数は0.3であった.
【考察】DSの事故回数と運転可否は関連しており,事故回数は視覚情報処理速度,遂行機能,視覚情報処理精度に関する検査と関連していることが明らかになった.作業療法士は,運転を希望する当事者に対しては,入院中から運転再開に関連するこれらの機能改善を含めて治療を計画することが重要と考える.