第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

脳血管疾患等

[OA-6] 一般演題:脳血管疾患等 6

2023年11月10日(金) 15:40 〜 16:50 第2会場 (会議場A1)

[OA-6-2] 右左折のないコースの追加はシミュレーター酔い,操作性に影響するか?

久保田 純平1, 本谷 綾祐1, 平林 宏之1, 横山 勝彦1, 外川 佑2 (1.公立陶生病院中央リハビリテーション部作業療法室, 2.山形県立保健医療大学作業療法学科)

【序論】
 脳損傷患者に対する運転評価やリハビリテーションにおいて,ドライビングシミュレーター(Driving simulator: DS)を用いた取り組みが増加している.DSの使用は複数の利点がある一方で,シミュレーター酔い(Simulator Sickness: SS)の問題も指摘されており,急性期においても15.2%はSSが発生したと以前に報告した(横山, 2019).SSに対する対策はいくつか提案されているが,脳損傷患者に対するSSの対応策についてのエビデンスは未だ示されていないのが現状である.
 当院では交差点右左折が無いコース(山岳コース)を,画面変化に慣れてもらう目的で慣らし走行の最初に実施している.そこで本研究ではコース走行の評価の前,慣らし走行において交差点右左折が無いコースの追加がSS,またDSの操作性に及ぼす影響を検証することを目的とした.
【方法】
 本研究は傾向スコアマッチングを用いた後方視的なケースコントロール研究とした.対象は,2019年9月から2022年11月まで当院でDSを用いてコース走行の評価を行った脳損傷患者232名とした.本研究は当院倫理委員会の承認を受け実施した.2020年12月以降に本研究の介入である山岳コースを実施した患者を介入群(山岳群:95名)とし,2020年12月以前の対象者で山岳コースを実施しなかった患者をヒストリカルコントロール(非山岳群:137名)とした.アウトカムは,SS発生の有無とし,不快感,頭痛,視界のぼやけ,冷や汗,目が回る,胃の不快感の6つの症状があり,DS評価を中止した患者をSSありと分類した.DSはHONDAセーフティナビを使用し,コース走行の評価として総合学習体験を実施し,評価前に慣らし走行を実施した.非山岳群は慣らし走行として短い市街地コースである危険予測体験を実施した.一方で,山岳群は慣らし走行として危険予測体験の前に交差点の右左折が無い山岳コースを10分程度追加して実施した.
 傾向スコアマッチングでは,山岳群か非山岳群かのカテゴリ変数を従属変数,年齢,性別,発症から評価までの日数,診断名,障害側,乗り物酔いの有無,運転頻度,TMT-A,TMT-B,Reyの複雑図形模写の点数を独立変数とした傾向スコアをロジスティックモデルで算出し,非復元抽出によるマッチングを実施した.マッチング後は,McNemar検定を用いて山岳群と非山岳群におけるSSの発生率を比較した.また総合学習体験における速度超過割合,超過分の平均速度,走行車線不適の回数,車線はみ出しの回数においてマッチング後のデータで共分散分析を実施した.統計学的有意水準は0.05とし,統計ソフトはRver4.2.1を使用した.
【結果】
 傾向スコアマッチングでは各群73名がマッチングされた.山岳コース実施群は山岳コース非実施群と比較し,SSの発生率に関して有意差は認めなかった(オッズ比: 0.93, 95%信頼区間: 0.42-2.07, p=1.00).総合学習体験では速度超過割合,超過分の平均速度が増加する傾向が見られ,車線はみ出しの回数が減少する傾向が見られた.
【考察】
 コース走行の評価の前,慣らし走行において右左折が無いコースの実施は,SS発生頻度の軽減には寄与しない可能性が示唆された.同時に,山岳コースを短時間追加する程度ではSSは惹起されない可能性も示唆された.
 山岳コースの練習により車線はみ出しが改善する傾向がみられ,交差点右左折が無いコースを用いた練習はSSの新たな発生を懸念せず,車線に沿った走行の練習として有用であると考えられる.