第57回日本作業療法学会

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一般演題

脳血管疾患等

[OA-6] 一般演題:脳血管疾患等 6

Fri. Nov 10, 2023 3:40 PM - 4:50 PM 第2会場 (会議場A1)

[OA-6-6] 目標設定ツールを使用した多職種連携

町田 知駿1, 近藤 健2, 黒澤 匠太1, 藤井 洋有1, 関根 圭介1 (1.公立藤岡総合病院リハビリテーション室, 2.群馬パース大学リハビリテーション学部)

【はじめに】脳卒中後の高次脳機能障害等の症状は,生活行為に支障をきたしやすい.また,リハビリテーション(リハ)では患者自身で今後の生活を見据えた目標設定が困難な場合がある.今回,軽度の運動麻痺と複数の高次脳機能障害を呈した症例(A氏)に対して,ADOCを取り入れた生活行為向上マネジメント(MTDLP)を行った結果,A氏との合意目標に向けて多職種が連携し,自宅退院となった一例を報告する.発表に際して書面にて本人の同意を得た.
【症例紹介】A氏は70歳代男性,診断名は左視床出血であった.現病歴は嘔吐,呂律障害により,急性期病院へ搬送され,8病日に回復期リハ病棟へ転棟した.既往歴は高血圧,糖尿病,心不全があった.生活歴は,ADLは自立,仕事は退職しており,家族と協力して家事を行っていた.
【作業療法評価】30病日の評価を以下に示す.Brunnstrom Recovery stageはⅤ-Ⅴ-Ⅴであり軽度の運動麻痺があった.失語症により喚語困難,保続があった.BIT行動性無視検査(BIT)は87点であり,右半側空間無視が見られた.Vitality Index(VI)は5点であり,ベッドで過ごすことが多かった.ADLはふらつき,失禁,危機管理能力の低下から軽介助が必要だった(FIM68点:運動49点,認知18点).家族は,トイレでの排泄を希望していたが,A氏は,「だいたいできている」と発言があった.
【介入の基本方針】A氏と病棟スタッフの間で評価の乖離が見られた.そのため,ADOCを用いて目標のすり合わせを行い,MTDLPを用いて合意目標に向けた介入を行った.
【介入経過】ADOCを用いた面接を実施し,抽出された項目は排泄,健康管理,家族との交流,炊事であり,MTDLPでの合意目標は「トイレの失敗が減る」であった(遂行度5点,満足度6点).MTDLPシートに基づき,医師からは家族に対して面談にてトイレは失敗が残る可能性があることの説明をし,ソーシャルワーカーには家族へ介護保険制度の提案や手続きを実施した.看護師は日中のトイレ誘導の回数を増やしトイレまでの移動は見守ること,夜間は尿瓶で行うことを排泄の関りとして統一した.理学療法ではトイレまでの歩行能力向上,作業療法では下衣操作練習,失禁時の後処理を反復して練習した.50病日には自身でトイレに行き,失禁時の後処理が可能となった.58病日に家屋評価に行き,家族,ケアマネージャーへ入院中の様子や失禁時に介助が必要な場合があることを説明し,同意が得られた.65病日に外泊練習を行い,家族より昼夜ともにトイレを行えていたと報告を受けた.90病日に自宅退院となった.
【結果】右半側空間無視は改善され(BIT133点),ADLは自立度,意欲共に改善した(FIM90点:運動67点,認知23点,VI9点).MTDLPの合意目標は達成され,遂行度7点,満足度8点に向上した.退院後,外来通院時にA氏と家族に自宅での様子について確認し,トイレでの失敗はあるが自身で後処理が行えていることが確認できた.
【考察】A氏はADOCを取り入れたMTDLPにより,失禁が減少し,退院後も家族の協力のもと自宅での生活が継続できていた.ADOCは高次脳機能障害により目標設定が困難だったA氏とのすり合わせにも有用であり,MTDLPを用いた多職種の明確な介入はA氏がリハに参加しやすい環境づくりの一助になったと考える.ADOCを取り入れたMTDLPは患者との目標を明確にし,多職種連携をするために有用であることが示唆された.