第57回日本作業療法学会

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一般演題

脳血管疾患等

[OA-7] 一般演題:脳血管疾患等 7

Sat. Nov 11, 2023 10:10 AM - 11:10 AM 第3会場 (会議場B1)

[OA-7-1] 拡散テンソル画像を用いた脳卒中患者の上肢回復過程における神経線維と上肢使用頻度および上肢機能の関係の検討:縦断研究

大瀧 亮二1,2, 笹原 寛2, 齋藤 佑規3, 竹村 直3, 出江 紳一1,4 (1.東北大学大学院医学系研究科 機能医科学講座 肢体不自由学分野, 2.済生会 山形済生病院リハビリテーション部, 3.済生会 山形済生病院脳神経外科, 4.東北大学大学院医工学研究科 社会医工学講座 リハビリテーション医工学分野)

【背景】拡散テンソル画像解析は,脳卒中後の白質線維の変性評価や病態解明のために広く用いられている脳画像解析手法である.これまで上肢機能に着目した多くの拡散テンソル画像を用いた研究が報告され,脳卒中後の機能回復は損傷側皮質脊髄路の異方性拡散(Fractional anisotropy: FA)値と有意な相関関係があることが示されている(Stinear, 2007; Lin, 2018).しかし,脳卒中後上肢リハビリテーションにおいて重要とされる日常生活内の上肢使用頻度と脳の神経線維との関係はほとんど分かっていない.近年の研究では,手の使用選択に頭頂葉が関与することが報告され(Fitzpatrick, 2019),頭頂葉と前頭葉を連絡する上縦束Ⅰの損傷後に手の使用行動に変化が生じたことから,手の使用行動に上縦束Ⅰが関与することが示唆されている(Howells, 2020).これらの知見から,脳卒中後の上肢使用頻度の回復過程において,運動関連の神経路だけでなく,より高次な機能である手の使用行動の役割を担う神経路と関係がある可能性がある.
【目的】脳卒中後の回復過程における脳の神経線維と上肢の使用頻度および機能の関係を明らかにする.
【方法】研究デザインは前向き縦断研究,亜急性期脳卒中患者25名を対象とし,登録後のベースライン,1ヵ月後,2ヵ月後,6ヵ月後に測定した.上肢使用頻度は3軸加速度計GT9Xを両手関節に装着し測定した (対健側比を算出).上肢機能はFugl-Meyer Assessmentを測定した.脳の白質線維は拡散テンソル画像を撮像し,脳構造の半球間差と縦断的変化をTract-based spatial statistics (TBSS) 全脳解析にて調べた(一般線形モデル,Familywise error多重比較補正).白質線維と行動データの関係を調べるために運動関連線維である皮質脊髄路 (大脳脚),上肢使用行動との関連が示唆されている上縦束Ⅰ〜Ⅲの解剖学的関心領域(Region of interest: ROI)を用いたROI解析を行った(Pearsonの積率相関係数,Bonferroniの多重比較補正).上肢使用頻度と上肢機能の縦断的変化を調べるために反復測定分散分析,多重比較にはBonferroni法を用い, 本研究における有意水準は5%とした.本研究は大学および病院の倫理委員会にて承認され,参加者に書面にて研究の説明を行い,同意を得た.
【結果】上肢使用頻度と上肢機能は6ヵ月の間に有意な改善を示した(p < 0.01).各時期におけるTBSSの半球間比較では,ベースラインでは損傷側皮質脊髄路の大脳脚から放線冠にかけて有意なFA低下を認めた(p < 0.05).さらに,有意なFA低下を示した領域は1ヵ月時には病変領域から離れた一次運動野付近まで拡大する逆行性変性を示した.2ヵ月以降は大きな変化はみられなかった.ROI解析においては,最終的な(6ヵ月後)上肢使用頻度はベースラインにおける上縦束 Iの FA比(非損傷側に対する損傷側FA値の比)と有意な正の相関があり (r = 0.63, p < 0.001),上縦束Ⅱ・上縦束Ⅲではこのような関係はなかった.最終的な上肢機能はベースラインにおける大脳脚のFA比と有意な正の相関を示した (r = 0.69, p < 0.001).したがって,運動出力に関わる皮質脊髄路(大脳脚)は上肢機能と,上肢使用行動に関与する上縦束Ⅰは上肢使用頻度とそれぞれ有意な相関関係があることが明らかになった.
【結論】脳卒中後の上肢回復過程において,上肢の使用頻度と機能は異なる神経線維と関係があり,使用行動の回復には手の使用に関与する高次領域を接続する上縦束Ⅰが重要である可能性が示唆された.本結果は脳卒中後の脳の構造的変化と上肢使用に関する新たな知見を提供し,脳卒中患者の上肢使用を促進する作業療法アプローチの考案に貢献する可能性がある.