第57回日本作業療法学会

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一般演題

脳血管疾患等

[OA-7] 一般演題:脳血管疾患等 7

Sat. Nov 11, 2023 10:10 AM - 11:10 AM 第3会場 (会議場B1)

[OA-7-3] 回復期リハビリテーション病棟でのAI予測分析ツールを用いた脳卒中上肢運動麻痺の予後予測

荒 洋輔1, 小野 圭介2, 髙橋 良輔2, 阿部 正之1, 白坂 智英3 (1.社会医療法人北斗 十勝リハビリテーションセンターリハビリテーション部 作業療法科, 2.社会医療法人北斗 十勝リハビリテーションセンターリハビリテーション部 理学療法科, 3.社会医療法人北斗 十勝リハビリテーションセンター診療部 リハビリテーション科)

【はじめに】
 回復期リハビリテーション病棟(以下,回復期リハ病棟)において,リハビリの効果は能力低下の改善とその効率で測られるが,脳卒中上肢運動麻痺を有する患者に対しては,能力低下へのアプローチに偏らず機能障害へのバランスの良いアプローチの検討が必要である.そのために,上肢運動麻痺の予後予測は非常に重要な要素を占めているが,臨床場面において予測モデルを実用するためには高い精度が求められており(Van Der Vlietら,2020),コンセンサスを得た予測モデルはまだない(C Rossoら,2020).
 今回,我々はAI予測分析ツールを活用し,当法人のリハビリテーションデータベース情報を基に脳卒中上肢運動麻痺の予測モデル作成を試みた.本研究の目的は,回復期リハ病棟におけるAI予測分析ツールを用いた脳卒中上肢運動麻痺の予測モデルの精度を確認し,臨床実用性を検討することである.
【方法】
 AI解析ソフトはPredictionOne(SONY社製)を用いた.対象は,2020~2021年度に回復期リハ病棟に入院した脳卒中患者のうちデータを抽出できた293名とした.予測モデル作成に用いる説明変数は,入院時データベースより選定,およびソフトより算出された寄与度を参考に項目の最小化を行い,Fugl-Meyer Assessment(以下,FMA)のA~D項目に決定した.目的変数は,①退院時のFMA上肢運動項目得点(0~66点)の数値予測,②退院時のFMA上肢運動項目重症度(重度:0~29点,中等度:30~49点,軽度:50~66点(JJ Dalyら,2005))の多値分類とした.予測モデルの精度確認として,2022年度(4~10月)に上記対象に該当した24名にて,それぞれの予測結果と実際の結果を比較した.
 本研究は,所属機関の倫理審査委員会の承認を得ている.
【結果】
 ①の決定係数は0.8521であり,予測結果と実際の結果の絶対誤差中央値は2.3(四分位範囲(IQR)=1.1-5.5)であった.②のAccuracyは88.4%であり,予測結果の正解率は95.8%(中等度を軽度と予測が1例)であった.
【考察】
 機能回復には神経線維束の残存率が影響し,予後予測をするうえで運動麻痺の程度が大きな因子になると考えられている(服部ら,2018).さらに,予後予測ツールの臨床実用を推進するためには方法がシンプルであることが大前提とされている(CM Stinearら,2019).そこで今回の予測モデルには入院時FMAのA~D項目の値のみを使用し,代表的な予後予測指標である複数地点のFMA値を用いた予測法(Van Der Vlietら,2020:絶対誤差中央値4.2(IQR=1.3-9.8))や経頭蓋磁気刺激による麻痺側上肢の運動誘発電位等のバイオマーカーを用いた予測法(CM Stinearら,2017:予測精度75%)よりも,高い精度が確認できた.
 AI予測分析ツールを用いた脳卒中上肢運動麻痺の予測モデルは,高精度かつシンプルさが利点であり,回復期リハ病棟において臨床実用できる可能性があると考える.
 今後,内部検証を進めつつ,退院時予測だけでなく時系列予測が可能となれば,さらに臨床実用に近づくと考える.