第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

脳血管疾患等

[OA-8] 一般演題:脳血管疾患等 8

2023年11月11日(土) 11:20 〜 12:20 第3会場 (会議場B1)

[OA-8-1] 能動的上肢位置覚検査の開発

角田 実咲1, 林田 一輝1,2, 瀧上 賢一1, 阪本 積美喜1, 大橋 ふさよ1 (1.藤井会リハビリテーション病院, 2.畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター)

【はじめに】手足の位置感覚障害は脳卒中患者の54%に生じADLを阻害する.Careyら(1996)は,手関節掌背屈の位置覚を定量的に検査できるWrist Position Sense Test (以下 WPST)を開発した.これは,受動的に動かされた手関節と分度器目盛り上のポインターの誤差を検出する方法である.しかしADL上で利用される感覚は能動的であるにも関わらず,これを評価できる方法は未開発のままである.加えてWPSTは手関節掌背屈運動のみであり,感覚検査として不十分である.
【目的】<第一研究>WPSTを改変した健常若年者での手関節掌背屈・橈尺屈・前腕回内外の能動的位置感覚検査(Active Position Sense Test,以下APST)の有用性を検証すること.<第二研究>APSTを健常高齢者と感覚障害を呈する脳卒中患者で検証すること.
【方法】第一研究の対象は健常若年者11名(平均年齢30±9歳)であった.APSTを十分に理解した検者2名が分担し,検者間信頼性に配慮した.本装置の角度区間は掌背屈90°,橈尺屈60°,回内外130°に設定し,所定角度は掌背屈条件9箇所,橈尺屈条件8箇所,回内外条件13箇所とした.被験者は前方のカーテンで視覚遮断されたボックス内に検査手を入れ,検者は分度器目盛りの所定角度をポインターでランダムに指示した.被験者は分度器目盛りを参考にしながら能動的に手を動かし,所定角度と感じたら動きを止めるよう求められ,所定角度との誤差を算出した.この時フィードバックは与えず,各所定角度を10試行行った.検査は2回行い,2回目は24~48時間後に行った.第二研究の対象は健常高齢者11名(平均年齢75±8歳),脳卒中患者1名(年齢70歳代,Fugl-Meyer Assessment-UE60点,Fugl-Meyer Assessment-Sensory3点,母指探し試験2度)であった.手続きは第一研究と同様とし,1回のみ実施した.統計学的検討には誤差を各条件の角度区間で正規化した数値を使用して3条件の一元配置分散分析を実施し,事後検定にBonferroni法による多重比較を用いた.統計ソフトはHAD ver.17を使用し,有意水準は5%とした.本研究は当法人倫理委員会の承認を受け(20230109-01),被検者には口頭にて十分に説明し承諾を得た.
【結果】<第一研究>3条件の平均誤差は1回目5.41±0.75°,2回目5.65±1.93°であった.各条件の平均誤差は,掌背屈条件1回目6.02±1.13°,2回目7.10±4.05°,橈尺屈条件1回目3.5±0.78°,2回目3.68±0.71°,回内外条件1回目6.32±1.61°,2回目6.27±2.38°であった.一元配置分散分析の結果,主効果があり(p<0.05), 橈尺屈条件が掌背屈・回内外条件に対して有意に高かった(p<0.01).<第二研究>健常高齢者の平均誤差は,掌背屈条件6.92±4.91°,橈尺屈条件3.99±1.63°,回内外条件8.02±2.99°であった.一元配置分散分析の結果,有意な主効果は無かった(p≻0.05).脳卒中患者の平均誤差は掌背屈条件8.5°,橈尺屈条件4.5°,回内外条件14.2°であった.
【考察】健常若年者の各条件の1回目・2回目の差は1.08°未満であり,信頼性は担保されていた.本研究の誤差は先行研究(Carey,1996)の誤差6.8±1.8°と同程度であり,APSTの有用性を示唆する.また健常若年者における条件間の有意差は,運動方向別の感覚鋭敏性の差を意味する.一方,健常高齢者で有意差が無いことは,加齢に伴い運動方向別の感覚鋭敏性が変化する可能性を示唆する.興味深いことに,回内外条件では健常高齢者に対して脳卒中患者の値(14.2°)は2標準偏差(14.0°)以上であった.このことは運動方向別の能動的感覚障害の評価の必要性を提案できる.今後はサンプル数を増やし能動的感覚障害とADLとの関係性を検証する必要がある.