第57回日本作業療法学会

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一般演題

脳血管疾患等

[OA-8] 一般演題:脳血管疾患等 8

Sat. Nov 11, 2023 11:20 AM - 12:20 PM 第3会場 (会議場B1)

[OA-8-2] 脳梗塞後の麻痺手の使用行動の変化と白質構造変化の関連性

庵本 直矢1, 小林 直樹1, 渡邉 史織1, 稲垣 亜紀2, 竹林 崇3 (1.名古屋市総合リハビリテーションセンター作業療法科, 2.名古屋市総合リハビリテーションセンター脳神経内科, 3.大阪公立大学大学院リハビリテーション学研究科)

<序論・目的>
 脳卒中後の麻痺手の行動変化は,機能変化よりも対象者の生活の質に影響を与え得る要因であり1),作業療法士が麻痺手の行動変化に焦点を当てた介入を提供することも多い.しかし,麻痺手の行動変化のベースにある脳内メカニズムに関する報告は少なく,とりわけ白質の構造変化に関する報告は皆無である.本研究の目的は,脳梗塞後の麻痺手の行動変化と白質構造変化の関連性について調査することであった.
<方法>
 対象は,脳梗塞後に上肢麻痺を呈した患者18名であった.適応基準として,(1) 40-80歳,(2) 皮質脊髄路関連領域における初発の脳梗塞後で,発症から3ヶ月未満,(3)発症前のADLが自立していた,(4) 利き手が右手, (5)自発的同意が可能な認知機能が保たれていること(MMSE ≥ 24点)とした. 除外基準として,(1)神経疾患または精神疾患の既往がない,(2)MRI撮像における禁忌がない,(3)明らかな高次脳機能障害がない,(4)外科的治療が行われていないこととした.作業療法としては,ロボット療法やConstraint-induced movement therapy,ADL訓練を中心とした介入を1日40-80分,週7日,6週間提供した.作業療法評価としては,介入前後でMotor Activity Log (MAL)とFugl-Meyer assessment上肢項目(FMA)を行った.また,同時期に拡散テンソル画像を取得し,白質構造変化の指標としてfractional anisotropy(FA)を算出した.FAを算出する関心領域は,交連線維として脳梁膝,脳梁体,脳梁膨大部,脳弓とし,連合・投射線維は,損傷側と非損傷側の大脳脚,内包後脚,帯状束,帯状束海馬部とした.
 統計解析として,介入前後のMALとFMAの変化量と各関心領域におけるFAの変化量の相関関係を確認した.さらに18名のうち,中等度から重度上肢麻痺(FMA<50点)に該当した11名に対して,同様のサブ解析を行った.各検定における有意水準は0.05とした.本研究は当院の倫理審査の承認を得て実施され(承認番号2018012),研究参加者全員から書面にて報告に関する同意を得ている.
<結果>
 FMAの変化量とFAの変化量との相関関係については,患者18名またはサブ解析の11名のどちらにおいても,相関関係は認められなかった.一方で,患者18名においては,MALの変化量と損傷側帯状束のFAの変化量に相関傾向を認めた(r=0.441, p=0.067).そして,サブ解析においては,脳弓(r=0.699, p=0.017)と損傷側内包後脚(r=0.640, p=0.034)のFAの変化量との間に相関関係を認め,損傷側帯状束のFAには相関傾向を認めた(r=0.544, p=0.083).
<考察>
 麻痺手の行動変化は,オペラント条件付けといった報酬や罰に伴う行動学習によってもたらされる可能性が示されている2).本結果より,脳梗塞後の麻痺手の行動変化は,皮質脊髄路といった運動に関連する白質線維のみならず,行動学習に関連する脳弓や帯状束といった白質構造の変化と関連している可能性が示された.
<参考文献>
1) Kelly, K. M. et al. (2018). Improved quality of life following constraint-induced movement therapy is associated with gains in arm use, but not motor improvement. Topics in stroke rehabilitation, 25(7), 467-474.
2) Taub, E. (2012). The behavior-analytic origins of constraint-induced movement therapy: an example of behavioral neurorehabilitation. The Behavior Analyst, 35(2), 155-178.